本文へ
ここから本文です

光回復酵素による損傷DNA修復反応を原子レベルで解明 -反応中間体立体構造の時系列観察で新たな酵素学の扉を開く-

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 教授 南後恵理子
研究室ウェブサイト

【概要】

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター生命系放射光利用システム開発チームの別所義隆客員研究員(台湾中央研究院?生物化學研究所客座教授(研究当時兼務))、台湾中央研究院?生物化學研究所の蔡明道特聘研究員、台湾大学のManuel Maestre-Reyna(マヌエル?マエストレ?レイナ)助理教授、フィリップ大学マールブルクのLars-Oliver Essen(ラーズ?オリバー?エッセン)教授、大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻の山元淳平准教授、東北大学多元物質科学研究所の南後恵理子教授、京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学の岩田想教授らの国際共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)[1]施設「SACLA[2]」と「SwissFEL[3]」を用いた時分割結晶構造解析[4]によって、紫外線によって損傷したDNAを修復する光回復酵素の動的構造を解明しました。

光回復酵素は青色光が当たるとDNA修復を始めますが、修復の最中の酵素およびDNAの立体構造は不明でした。本研究では、酵素の活性中心であるフラビン補酵素FAD[5]からの電子移動を引き金としたDNA修復反応と、修復されたDNAが酵素から離脱する様子を、ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)からマイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)のスケールで明らかにしました。

本研究は、疾患の原因にもなるDNA損傷の修復過程に関する理解を深め、立体構造に基づくより合理的な人工酵素や薬剤の設計に寄与するものです。

本研究は、科学雑誌『Science』オンライン版(2023年11月30日付:日本時間12月1日)に掲載されました。

本研究で明らかになった光回復酵素の反応の様子

【用語解説】

[1] X線自由電子レーザー(XFEL)
近年の加速器技術の発展によって実現したX線領域のパルスレーザー。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限はない。SPring-8などの従来の放射光源と比較して、10億倍も高い輝度のX線がフェムト秒(1,000兆分の1秒)スケールの時間幅を持つパルス光として出射される。この高い輝度を生かしてマイクロメートルサイズの小さな結晶を用いたタンパク質の原子分解能の構造解析やX線領域の非線形光学現象の解明などの用途に用いられている。

[2] SACLA
理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。高い空間コヒーレンス、短いパルス幅、高いピーク輝度を備えたX線領域のレーザーを発生させる。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLA(サクラ)と命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まった。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにもかかわらず、0.1nm以下という世界最短クラスの波長のレーザー生成能力を持つ。

[3] SwissFEL
スイス北部のパウル?シェラー研究所(Paul Scherrer Institute: PSI)に設置された比較的に新しいXFEL施設。2019年より運用が開始された。日本のSACLAは、LCLS(米国)、European-XFEL(欧州)、SwissFEL(スイス)、PAL-XFEL(韓国)、上海XFEL(中国)とともに6極連携を進め?国際的な研究協力体制を強化している。

[4] 時分割結晶構造解析
結晶中の分子の微細な動きを高い時間分解能で観察する手法。本研究では、室温で微結晶を連続的にX線自由電子レーザーのX線照射ポイントまで流し、これに酵素の構造変化を引き起こす青色レーザー光を照射する装置を組み合わせてデータを取ることで、光回復酵素と損傷DNAの構造変化を観察した。Time-resolved serial femtosecond crystallography(TR-SFX)法の訳語。

[5] FAD
フラビンアデニンジヌクレオチド(Flavin Adenine Dinucleotide)の略称。ビタミンB2(リボフラビン)にオルトリン酸2分子とアデノシン1分子が結合した化合物で、多くの酸化還元酵素の補酵素として重要である。アデノシンが結合しないフラビンモノヌクレオチド(FMN)とともに、フラビン補酵素と呼ばれる。両者は、微生物から高等動物まで広く生命基本原材料として細胞内反応に使われている。酸化型と還元型があり、それぞれFADox、FADH-と示した。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 南後 恵理子(なんご えりこ)
TEL: 022-217-5344
E-mail: eriko.nango.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ