2023年 | プレスリリース?研究成果
脂質代謝や炎症反応に関わるタンパク質の構造を解明 ~副作用の少ない新薬の開発の糸口に~
【本学研究者情報】
〇薬学研究科 分子細胞生化学分野
教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト
【研究成果のポイント】
- 脂質代謝や炎症反応に関わるタンパク質であるHCAR2の立体構造の解明。
- 既存薬剤とHCAR2の結合を原子レベルで解明したことで、新規治療薬の開発へ貢献が期待。
- 顔面紅潮の副作用を起こしにくい治験薬GSK256073とHCAR2の複合体の構造解明と活性測定から、副作用の少ない新規薬剤の開発への貢献が期待。
【概要】
横浜市立大学大学院生命医科学研究科博士研究員 朴在鉉さん、博士後期課程3年 石本直偉士さん、朴三用教授らの研究グループは、同大学院生命医科学研究科 池口満徳教授、浴本亨助教、東北大学大学院薬学研究科 井上飛鳥教授らとの共同研究により、脂質代謝異常症や炎症性疾患の薬として用いられるニコチン酸(ナイアシン)を含む3種の既存薬剤とその作用標的となるヒドロキシカルボン酸受容体2(HCAR2)とGiタンパク質三量体(注1)の複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析(注2)により明らかにしました。
本研究成果は、体内での脂質代謝や炎症反応の知見を深めるとともに、既存薬の副作用として問題となっている顔面紅潮(注3)の原因の理解と、副作用の少ない新しい治療薬の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、「Nature Communications」に掲載されました。(2023年11月6日)
図1 (a)3種類の薬剤の構造とHCAR2の細胞内での情報伝達の概略図。(b)クライオ電子顕微鏡により明らかとなったHCAR2、Gタンパク質三量体と薬剤の複合体の全体構造。
【用語解説】
注1. Giタンパク質三量体:
Gタンパク質三量体はαβγの3つのサブユニットから構成されている。中でもGαサブユニットは複数(i, s, q, 12/13)の種類が存在しており、Gαサブユニットの種類によって細胞内で起こる反応が異なる。Gαiサブユニットはアデニル酸シクラーゼを抑制することで細胞内のセカンドメッセンジャーであるcAMPの濃度を低下させる。
注2. クライオ電子顕微鏡単粒子解析:
タンパク質の立体構造を明らかにする手法の一つ。生体分子をマイナス180 ?C近い極低温状態の氷の中に包埋し、その状態で電子顕微鏡により観測する。観測した生体分子の粒子像を大量に撮影し、得られた数十万の粒子像から3次元に再構成することで立体構造を明らかにする手法のこと。
注3. 顔面紅潮(がんめんこうちょう):
様々な要因により顔の血管が拡張し、顔面が赤くなる症状を示す。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野
教授 井上 飛鳥(いのうえ あすか)
TEL:022-795-6860
E-mail:asuka.inoue.c2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部
総務係
TEL:022-795-6801
E-mail:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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