2023年 | プレスリリース?研究成果
酸化処理したセルロースナノファイバーの高い蓄電性の機構を解明 ―官能基への結合水が蓄電性向上に寄与―
【本学研究者情報】
〇未来科学技術共同研究センター
学術研究員 福原 幹夫
研究者ウェブサイト
【発表のポイント】
- 触媒用有機化合物のTEMPO(注1)で酸化したセルロースナノファイバー(CNF)は水酸基の脱水反応により高温に弱いと思われていましたが150℃の高温まで蓄電特性を発現することを確認しました。
- 蓄電体の電子伝導は、CNF周辺のC6位(注2)を置換したCOONa官能基に形成される結合水によってバンドギャップエネルギーが増大し、蓄電量の漏洩が防止されることを明らかにしました。
- 今回の成果から、湿度や水分に強い高電圧充電CNF蓄電体の実現が期待されます。
【概要】
木材パルプ等から生産されるセルロースナノファイバー(CNF)は、カーボンニュートラル(注3)を推進する新規素材として期待されていますが、現時点での応用は機械的?化学的分野における使用に限定されています。
東北大学未来科学技術共同研究センターの福原幹夫学術研究員、橋田俊之特任教授、静岡大学の藤間信久教授らの研究グループと日本製紙株式会社富士革新素材研究所は共同で、以前同グループが見出していたTEMPO酸化CNFの蓄電性に関して、その機構を詳細に調べた結果、結合水の存在が蓄電性に大きく寄与することを見出しました。CNF蓄電体は構成材料に電解液を全く用いない特徴がありますが、今回の検討により、本固体蓄電体は使用温度が~150℃と広範囲であり、しかも従来の蓄電池と対照的に耐水性があることが実証されました。これは500Vまでの高電圧短時間充電に加え、空中や真空中からの電荷の蓄電に道を開く可能性があります。またナノサイズ径CNFの使用とそのシートの積層化による蓄電体の大容量化が示唆され、「ペーパーエレクトロニクス(注4)」への展開が期待されます。
本研究成果は、2023 年10月3日に科学誌Scientific Reports にオンライン掲載されました。
図1. グルコースユニットとグルクロン酸ユニット間を架橋するCOONa+4H2Oを持つセルロースナノフィブリルの図。
【用語解説】
注1. TEMPO:
有機化合物2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの略。対をなさない電子を1つ以上持つ原子または原子団をフリーラジカルまたはラジカルと呼ぶ。TEMPOは、室温環境でもラジカルとして十分に長い寿命を持つ試験研究用試薬で、アルコールの酸化反応の触媒として古くから知られている。
注2. C6位:
炭化水素の骨格である直列につながった炭素原子(C)の端から数えて6番目の位置。βグルコースの重合体であるセルロースの場合、6個の炭素原子の直鎖を持つβグルコースの、最初のアルデヒド基(CHO)のC位置から数えて最後の6番目にあるヒドロキシメチル基(CH2OH)のC位置がC6位。
注3. カーボンニュートラル:
温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的排出をゼロにすること。
注4. ペーパーエレクトロニクス:
セルロースを基材として紙本来の特性を利用したエレクトロニクス。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学未来科学技術共同研究センター
学術研究員 福原幹夫
電話番号: 080-1069-4789
メール:mikio.fukuhara.b2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学未来科学技術共同研究センター
広報
TEL: 022-795-4004
Email: nich-pr*niche.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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