2023年 | プレスリリース?研究成果
昆虫の個体差に依存しないシンプルな筋力制御 - 昆虫サイボーグロボットの実用化に期待 -
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科ロボティクス専攻
准教授 大脇 大
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- ナナフシ(注1)の脚筋に外部から電気刺激を与え、筋肉(注2)が収縮することにより発生する関節トルク(注3)を系統的に評価しました。
- 電気刺激の入力時間と生成される関節トルクの間に区分的(~500ms)な線形関係(注4)を発見しました。
- 昆虫の関節トルク生成に関する個体横断的な共通の特性と個体差(個体間変動)(注5)特性を明らかにしました。
- 昆虫ハイブリッドロボット(サイボーグ)(注6)技術の発展?加速への貢献が期待されます。
【概要】
近年、災害現場での捜索活動などでの活用を目的とした、昆虫の卓越した運動能力と電子部品などを組み合わせた「昆虫ハイブリッドロボット(サイボーグ)」の研究が注目されています。
東北大学大学院工学研究科の大脇大(おおわきだい)准教授はドイツのビーレフェルト大学との共同研究で、昆虫サイボーグの運動制御のための基礎的研究の一環として、ナナフシの脚筋に電気刺激を与え、その刺激に応じて筋肉が発生する力とそれに対応する関節トルクの変化を評価しました。その結果、電気刺激の入力時間と生成される関節トルクとの間には線形関係があることを確認し、ナナフシの関節トルク生成において個体間で見られる共通の特性と個体差による変動の特性を明らかにしました。この成果により、シンプルなアルゴリズムによる個体差に依存しない昆虫の筋力制御が可能になります。この知見は、昆虫の歩行メカニズムの理解と昆虫サイボーグ技術の発展に役立つと考えられます。
本研究成果は、2023年9月13日(日本時間9月14日)に生物学分野の専門誌eLifeに掲載されました。
図1. (図右)実験環境の外観図。開発した電気刺激装置からナナフシの筋肉へ電気信号を送信し、発生する関節トルクを力センサーを用いて計測。(図左)電気刺激の対象とした3つの筋肉(前引筋, 後引筋, 挙筋)に電気刺激を送信するため電極を外骨格内部に挿入。(図中央下)神経信号を模擬したPWM信号。
【用語解説】
注1 ナナフシ:
ナナフシ目に属する昆虫の総称。草食性で、木の枝に擬態する。「七節」の「七」は単に「たくさん」という程度の意味で、実際に体節を7つもっているわけではない。実験対象のナナフシの学名はCarausius morosus(De Sinéty, 1901)。
注2 筋肉:
昆虫を含む動物が動くための体の筋組織。昆虫の筋肉は非常に小さく、特有の動きや力を生成。
注3 関節トルク:
関節を回転させる力の回転方向と大きさを示す指標。関節のまわりに配置されている筋肉が収縮することで関節トルクが発生する。
注4 線形関係:
2つの要因が直線的な関係を持つこと。一方の要因が増加すれば、もう一方も一定の割合で増減する、というシンプルな関係を指す。
注5 個体差(個体間変動):
同じ種類の生物でも、個々に異なる特性や反応を持っていること。人間では、体質や性格の違いなどに相当する。
注6 昆虫ハイブリッドロボット(サイボーグ):
生物の昆虫と電子機械を組み合わせて作られたロボット。昆虫の自然な動きとロボット技術の組み合わせることで、新しい機能や動きが実現される。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科 ロボティクス専攻
准教授 大脇 大
TEL: 022-795-4064
E-mail: owaki*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
E-mail: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています