2023年 | プレスリリース?研究成果
トポロジカル物質の潜在的に優れた特性を理論と実験で実証 ─スピントロニクス素子のさらなる低消費電力化に期待─
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 准教授 関剛斎
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- トポロジカル物質(注1)の一つであるコバルト?スズ?硫黄化合物(Co3Sn2S2)をベースに、スピンホール効果(電流を流すと横方向にスピンの流れ(スピン流(注2))が生じる現象)を最大化するための材料設計を理論提案し、実験的に実証しました。
- 低温で磁石になるCo3Sn2S2の一部をインジウム(In)またはニッケル(Ni)に置換した材料について、低温での異常ホール効果(注3)と室温でのスピンホール効果(注4)を評価し、2つのホール効果の相関を確認しました。
- 異常ホール効果の情報をもとにスピンホール効果の大きさを理論予測できるため、材料探索の高速化が期待されます。
【概要】
スピンの流れ(スピン流)を積極的に利用し、スピンの方向で情報を記憶するスピントロニクス素子は、半導体エレクトロニクスだけでは難しい機能性(例えば低消費電力化など)を実現できるデバイスとして期待を集めています。しかしながら電流とスピン流との変換効率をいかに向上させるかが高性能化の鍵であり、高い変換効率の材料を探し出すための材料探索指針を示すことが切望されていました。
今回、東北大学金属材料研究所のラウ ヨンチャン(Yong-Chang Lau)特任助教(研究当時:現中国科学院物理研究所准教授)と関剛斎准教授、東北大学大学院理学研究科の小沢耀弘大学院生(研究当時)らの研究グループは、トポロジカル物質の電子状態に着目することで、磁石の中に現れる「異常ホール効果」と非磁石の「スピンホール効果」の大きさをそれぞれ理論計算から予測し、実験的にその材料探索指針を実証することに成功しました。今回の成果は、高いスピン変換効率を示す材料を探し出すための指針となり、トポロジカル物質をスピントロニクスに利用するための材料開発が加速し、将来の半導体エレクトロニクス素子の低消費電力化に大きく寄与するものと期待されます。
本研究成果は、2023年8月25日付で、米国物理学会の専門誌Physical Review Bに注目論文(Editors' Suggestion)としてオンライン掲載されました。
図1. 強磁性Co3Sn2S2における異常ホール伝導度、常磁性Co3Sn2S2におけるスピンホール伝導度の理論計算結果。最大となるエネルギーが各々異なっている。
【用語解説】
注1. トポロジカル物質
固体中の電子の運動はバンド構造(原子軌道の集合体)によって特徴づけられ、その幾何学的性質の観点から物性を理解しようとする研究が進められている。従来の金属や半導体とは異なるバンド構造の幾何学的性質をもつ物質群をトポロジカル物質とよぶ。今回研究グループが用いたCo3Sn2S2は、磁石としての性質(強磁性)をもつトポロジカル物質の一種として物性物理学分野で注目を集めているが、スピンホール効果を示す材料としての性質は未解明であった。
注2. スピン流
スピン角運動量の流れ。電子スピンは自転しており、スピン角運動量を持っている。この電子スピンを上向きスピンと下向きスピンに区別すると、上向きスピンの流れJ↑と下向きスピンの流れJ↓を用いて電流はJ↑+ J↓と表すことができる。一方で、スピン流はJ↑- J↓で表される。上向きスピンと下向きスピンが同数存在する非磁性体や常磁性体ではJ↑とJ↓が逆方向に流れることによりJ↑- (- J↓)の純スピン流を生成することができる。
注3. 異常ホール効果
x、yおよびzから成る直交座標系において、導体物質のx方向に電流を流し、z方向に磁場を印加すると、y方向に電圧(ホール電圧)が生じる。これは電子のうけるローレンツ力に由来し、ホール効果と呼ばれる。磁化を持つ磁性体では、ホール電圧に磁化の寄与が加わる。これが異常ホール効果と呼ばれる。
注4. スピンホール効果
スピン軌道相互作用の大きな非磁性体や常磁性体に電流を流すと、電流の横方向にスピン流が生じる現象。電流はスピン分極していないが(上向きスピンと下向きスピンの数は同数でJ↑- J↓= 0となるが)、スピン軌道相互作用により上向きスピンと下向きスピンが逆方向に散乱されることにより、電流の横方向にJ↑- (- J↓)のスピン流を発生できる。これは電荷の流れを伴わない純スピン流となる。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
准教授 関剛斎
TEL:022-215-2097
Email: takeshi.seki*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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