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生物の脳神経回路の構造を模した培養系モデルを開発 ─モジュール構造の機能的意義に関する新視点を提供─

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 准教授 山本英明
ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 微細加工基板上でラット大脳皮質の神経細胞を培養し大脳皮質を特徴づける「モジュール構造」(注1)をもつ神経回路を構築しました。
  • モジュール構造をもつ培養神経回路(注2)では、外部からの非同期的な入力に対する感受性が上がり、神経活動の同期性を高めたり下げたりしやすくなることを明らかにしました。
  • 脳情報処理における非同期的な信号やモジュール構造の機能的意義に関する新しい視点を提供します。

【概要】

哺乳類の大脳皮質においては、複数の神経細胞が同期して活動する状態と細胞がそれぞれ個別に発火する状態の均衡が保たれていると言われています。このような発火状態は、他の領域から受け取る信号と大脳皮質のネットワークの構造の相互関係によって制御されていると考えられますが、これを系統的に検証するための有効な実験系が存在しませんでした。

東北大学電気通信研究所の山本英明准教授と平野愛弓教授(材料科学高等研究所兼担)らの研究チームは、スペインのバルセロナ大学とグラナ大学およびドイツのマックスプランク研究所と共同で、微細加工したガラス基板上でラット大脳皮質の神経細胞を培養し、このような現象を調べるための独自の実験系を構築しました。そして、哺乳類の大脳皮質で見られる「モジュール性」という特徴を強く持った培養神経回路ほど外部入力に対する感受性が強くなり、培養神経回路特有の過剰な同期が崩されやすくなることを明らかにしました。さらに、一連の実験結果を説明するシミュレーションモデルを構築し、入力を常時受けることによってシナプス伝達で放出される神経伝達物質が減少することが鍵になっていることを突き止めました。

この研究は生物が進化の過程で保存してきた回路構造の機能的意義を明らかにするものであり、その特徴を工学的に活用した新しい医工学デバイスや人工ニューラルネットワークモデルの提案などへとつながることが期待されます。

本研究成果は、2023年8月25日(米国時間)に国際科学誌Science Advancesに掲載されました。

図1. 構築した実験系の模式図(左)とモジュール構造型培養神経回路の顕微鏡写真(右)。黄色で囲った領域に含まれる神経細胞に刺激を印加した。

【用語解説】

注1. モジュール構造
密に結合した集団(モジュール)が全体の中に複数存在しているようなネットワークの構造.生物の脳神経系の特徴の1つとして,進化的に保存されていることが知られている.

注2. 培養神経回路
実験動物の脳から採取した神経細胞をシャーレ内で育てて形成した回路.微細加工を施した特殊な表面上で細胞を培養することで,生物の脳に近い配線構造をシャーレ上に再構成することができる

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
准教授 山本英明
TEL: 022-217-6102
E-mail: hideaki.yamamoto.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
E-mail: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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