2023年 | プレスリリース?研究成果
合成最難関化合物、ビプレイオフィリンを全合成 ~複雑な多環性構造を有する天然アルカロイドの世界初の完全化学合成に成功~
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 医薬製造化学分野
教授 徳山英利
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 医薬のシーズとして期待されながら合成最難関化合物だった二量体型中分子アルカロイド(注1)、ビプレイオフィリンの完全化学合成を世界で初めて達成しました。
- ビプレイオフィリンなど様々な二量体型アルカロイド(注2)の単量体として含まれているプレイオカルパミンの実用的合成法を確立しました。
- 生体内酵素に含まれるヘム鉄(注3)を模倣して設計した鉄触媒を用いて、従来法より高効率の酸化的カップリング反応を開発しました。
【概要】
キョウチクトウ科の植物から抽出されるアルカロイドであるプレイオカルパミンは、他のアルカロイドと生合成的に結合し、新規抗がん剤の候補化合物を含む多様な二量体型アルカロイドを生成します。これらの二量体型アルカロイドは、従来の低分子医薬品の範疇に収まらない創薬として、最近注目を集めている中分子(注4)創薬への応用が期待されています。
ビプレイオフィリンは、その構成要素となる分子プレイオカルパミンの合成や結合部分の構築が難しいことから、天然物合成の分野では最も化学合成が難しいとされるインドールアルカロイドの一つとして知られています。
東北大学大学院薬学研究科の徳山英利教授と植田浩史准教授らの研究グループは、合成終盤に平面性の高いインドール環を構築する独自の合成戦略により、グラム単位での量的供給を可能にするプレイオカルパミンの不斉全合成を達成しました。さらに、ヘム鉄を模倣して設計した鉄触媒を用いて、既存法を20倍上回る効率性で2つのプレイオカルパミンのカップリングに成功し、生合成中間体を用いないビプレイオフィリンの完全化学合成を達成しました。
今回開発したアルカロイドのカップリング反応を用いた合成戦略は、中分子アルカロイド創薬や天然化合物の生合成経路の解明への寄与が期待されます。
本研究成果は、米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyに2023年7月24日に掲載されました。
図1. プレイオカルパミンとプレイオカルパミン含有二量体型中分子アルカロイド。
【用語解説】
注1 アルカロイド
窒素原子を含む天然有機化合物の総称。アルカロイドという名称は、大部分の化合物が塩基性を示すことから、アルカリ(塩基性)に由来する。その多くが多様な生物活性を示し、医薬品に用いられる医薬資源として知られる。またアルカロイドは、医薬品だけでなく、コーヒーに含まれるカフェインやタバコの葉に含まれるニコチンなど、嗜好品にも含まれている。
注2 二量体型天然物
天然から得られる有機化合物のなかには、2つの同一あるいは類似した構造ユニットが結合した化合物が存在し、これらは二量体型天然物と呼ばれる。二量体型天然物の多くが、単量体ユニットと比べて高い活性を有するなど、近年、創薬研究で注目を集めている化合物群の一つである。
注3 ヘム鉄
シトクロムP450をはじめとする生体内酸化酵素の活性中心であるポルフィリン鉄錯体。様々な天然化合物の生合成や薬物の代謝など、生体内における様々な化学反応に関与している。
注4 中分子
低分子と高分子の間の化合物の総称。明確な定義はないが、一般的に分子量500-5,000程度の分子を中分子と分類している。低分子や高分子の特徴を併せ持つ化合物が多いため、近年、新たな創薬ターゲットとして注目を集めている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 徳山英利、准教授 植田浩史
TEL:022-795-6878, 6878
E-mail: hidetoshi.tokuyama.d4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
hirofumi.ueda.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部 総務係
TEL: 022-795-6801
E-mail: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています