2023年 | プレスリリース?研究成果
次世代通信「6G」向け電波偏向制御技術を開発 - 新しい透過型メタマテリアルでテラヘルツ波の伝播方向を広角に制御 -
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科ロボティクス専攻
教授 金森 義明
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- テラヘルツ波(注1)の伝播方向を広角制御できる透過型偏向器を開発しました。
- 0.3~0.5 THzの周波数帯において、世界で初めて74°の広角な偏向走査を実現しました。
- 次世代の第6世代移動通信システム(6G)(注2)をはじめ、医療?バイオ?農業?食品?環境?セキュリティなど幅広い分野での応用が期待されます。
【概要】
世界ではすでに移動通信システム5Gの次の世代「6G」を見据えた研究開発が始まっており、5G用の電波(ミリ波)よりさらに波長が短いテラヘルツ波が使用されることが明示されています。しかし、テラヘルツ波は障害物に遮蔽されやすく、その進行方向を制御して遮蔽エリアに信号を届ける技術が求められています(図1)。
東北大学大学院工学研究科の金森義明教授らの研究グループは、シリコン製のサブ波長構造(注3)で構成される透過型メタマテリアル(注4)を新たに開発し、屈折率を人工的に精密制御して空間配置する実効屈折率分布制御に基づき、テラヘルツ波の進行方向を所望の向きに変えることのできるテラヘルツ波偏向器を開発しました。開発した透過型メタマテリアルは、半導体微細加工技術を用いて作られるため小型?量産性に優れます。
本技術は、将来的にはテラヘルツ波スキャナやイメージングへの応用展開が期待でき、医療?バイオ?農業?食品?環境?セキュリティなど幅広い分野での応用も期待されます。昨年、設置した国内初のメタマテリアルを専門とする研究センター「メタマテリアル研究革新拠点」(注5)を基盤に実装化に向け、研究をさらに加速させていきます。
本研究成果は、2023年7月31日付で、米光学会誌Optics Expressに掲載されました。
図1. 開発した透過型偏向器の利用イメージ。テラヘルツ波は建物などの障害物に遮蔽されやすい(赤色)が、透過型偏向器を設置することにより、基地局から発せられたテラヘルツ波を建物の裏側に届けることができる(青色)。
【用語解説】
注1 テラヘルツ波
光波(赤外線)と電波(ミリ波)の中間にあたる帯域の電磁波で波長は約10マイクロメートル(周波数30テラヘルツ)から約1ミリメートル(周波数300ギガヘルツ)。赤外線のように検査?分析に用いる他、波長約10ミリメートル(30ギガヘルツ)から約10センチメートル(周波数3ギガヘルツ)のマイクロ波を用いる現在の通信(5G)に続く次世代通信(6G)用の電磁波として期待されている。
注2 第6世代移動通信システム(6G通信)
現行の携帯電話で使われている 5Gに続く無線通信システム。2030 年代の商用化が見込まれている。通信速度は5G の 10 倍以上の毎秒 100 ギガビット級(ギガは 10 億)が想定されている。高解像度の3D映像を触覚情報などと合わせてリアルタイムで送受信できるようになる。医療分野では遠隔での治療や診察、教育分野では臨場感のあるリモート授業が実現する。
注3 サブ波長構造
入射する光波長よりも小さな構造で構成される人工光学物質あるいはその構造。構造を制御することにより、例えば、自然界の物質には無い特異な屈折率を人工的に実現することも可能である。
注4 メタマテリアル
制御の対象とする電磁波の波長より小さな単位構造で構成され、自然界にはないような電磁波応答を示す人工光学物質。空間的な局在電場モード(光の状態密度)を自在に設計し得る最小の光共振器とも言え、電磁波の応答特性は主にメタマテリアルの形状で決まる。光共振器の設計次第で実効的な屈折率を自在に制御できる。要求に応じた屈折率を持つ光学材料を設計に基づき人工的に実現でき、負の屈折率、透明マント(クローキング)、完全レンズなどの実現可能性が示されている。
注5 研究センター「メタマテリアル研究革新拠点」
2022年6月1日設置。拠点長は東北大学大学院工学研究科 教授 金森義明。
https://web.tohoku.ac.jp/kanamori/0meta-ric/index.html
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
教授 金森義明
TEL: 022-795-4893
E-mail: ykanamori*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科
情報広報室
担当 沼澤みどり
TEL: 022-795-5898
E-mail: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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