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イヌ悪性黒色腫に対して放射線治療との併用で抗PD-L1抗体の効果が高まることをはじめて報告 ~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬のより良い使用法の実現に期待~

【本学研究者情報】

〇医学系研究科分子薬理学分野 教授 加藤幸成
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 肺転移を持つ口腔内悪性黒色腫に罹患したイヌにおいて抗PD-L1抗体の治療効果を回顧的に解析。
  • 放射線治療歴の有無やそのタイミングが抗PD-L1抗体の治療効果と相関することを発見。
  • 抗PD-L1抗体治療開始前に放射線治療を受けることでより良い治療効果が得られる可能性。

【概要】

北海道大学大学院獣医学研究院の出口辰弥特任助教、前川直也特任助教及び今内 覚教授、東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授らの研究グループは、肺転移を持つ口腔内悪性黒色腫*1に罹患したイヌにおいて、免疫チェックポイント阻害薬*2である抗PD-L1抗体の治療効果を回顧的に解析*3し、抗PD-L1抗体治療開始前に放射線治療を受けていた群でより良い治療効果が得られたことを明らかにしました。

イヌの腫瘍は外科手術や放射線療法などによって治療されますが、ヒト医療における現状と同様に完治に至らないケースも多く、新規治療法の確立が望まれています。研究グループではこれまでに、抗PD-L1抗体が一部のイヌにおいて腫瘍の退縮をもたらすことを北海道大学動物医療センターにおける臨床研究として世界に先駆けて報告してきました。しかし、奏効が得られるイヌは一部にとどまっていました。

そこで本研究では、これまでに抗PD-L1抗体による治療を行った、肺転移のある口腔内悪性黒色腫のイヌについて回顧的な解析を行うことで、低分割放射線療法*4と抗PD-L1抗体療法の組み合わせがより良い治療効果に繋がるかを検討しました。その結果、放射線治療歴の有無やそのタイミングが抗PD-L1抗体の治療効果と相関することを発見しました。

本研究成果は、抗PD-L1治療の開始前に放射線治療を行うことで免疫療法の効果が増す可能性を示し、イヌでの免疫チェックポイント阻害薬のより良い使用法の解明に繋がる重要な知見となります。

なお、本研究成果は、2023年6月1日(木)公開のCancers誌にオンライン掲載されました。

図1. 免疫チェックポイント分子による腫瘍の免疫抑制メカニズムとその阻害薬による治療。
PD-1及びCTLA-4はT細胞(免疫細胞)における抑制性受容体(免疫チェックポイント分子)であり、抗腫瘍免疫を低下させる。抗PD-1/PD-L1抗体、及び抗CTLA-4抗体は免疫チェックポイント分子の機能を阻害することで抗腫瘍免疫を活性化させる。

【用語解説】

*1 悪性黒色腫 ... 皮膚や粘膜などに発生する、色素細胞(メラノサイト)に由来する悪性腫瘍のこと。メラノーマとも呼ばれる。

*2 免疫チェックポイント阻害薬 ... がん細胞は通常、免疫応答による排除を受けるが、一部のがんは免疫を回避(抑制)する機構を獲得することがある。例えば免疫細胞(T細胞)にあるPD-1というタンパク質(受容体)と、がん細胞のPD-L1というタンパク質(リガンド)が結合すると、免疫細胞はがん細胞に対する攻撃をやめてしまう。一方で、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体はPD-1とPD-L1の結合を阻害することで抗腫瘍免疫を活性化することができる(免疫療法)。PD-1やPD-L1などは免疫応答の調節に重要な役割を担うことから免疫チェックポイント分子と呼ばれ、それらを標的とした薬剤は免疫チェックポイント阻害薬と総称されている。

*3 回顧的に解析 ... レトロスペクティブ解析、後ろ向き研究ともいう、症例データの解析方法の一つ。調査を開始した時点から、過去のデータを遡って情報を収集し、解析を行う手法。今回は、既に治療を行ったイヌのデータを、過去の情報(カルテに記載)をもとに分類し解析した。

*4 低分割放射線療法 ... 放射線療法では、正常組織への傷害を抑えつつ腫瘍への殺傷効果を最大限に得るために、通常複数回にわたって照射を行う分割照射が行われる。イヌの放射線治療においては照射のたびに全身麻酔が必要であることから、1回あたりの照射線量を大きくして分割の回数を減らした低分割照射が行われることがある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 
教授 加藤幸成(かとうゆきなり)
TEL 022-717-8207 FAX 022-717-8207 
メール yukinari.kato.e6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学医学部広報室
TEL 022-717-7149 FAX 022-717-8931 
メール press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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