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神経変性疾患原因タンパク質の液-液相分離と凝集のプロセスを観測 発症機構の理解と治療法開発へ期待

【本学研究者情報】

〇薬学研究科 生物構造化学分野
助教 田原進也

〇薬学研究科 生物構造化学分野
教授 中林孝和
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病に代表される注1発症の原因とされるタンパク質について、液-液相分離状態を経由した凝集過程を観測することに成功しました。
  • 神経変性疾患の一つであるマシャドジョセフ病注2の原因タンパク質アタキシン3が、液-液相分離後、複数の構造変化のステップを経て凝集することがわかりました。
  • 液-液相分離状態をターゲットとした創薬への展開が期待されます。

【概要】

液-液相分離とは水と油のように二相の液相に分かれる現象であり、細胞内では生体分子が高濃度に存在する液相(液滴)を形成します。液滴は様々な生理機能を発揮しますが、タンパク質が液滴を形成すると凝集を引き起こし、神経変性疾患等を誘起することも提案されています。

 東北大学大学院薬学研究科の中林孝和教授らは、紫外蛍光寿命顕微鏡を製作し、液滴内のタンパク質の構造変化を液滴のままの状態で測定する手法を確立しました。この手法を用いて、小脳の神経細胞の機能不全により引き起こされるマシャドジョセフ病2の原因タンパク質、アタキシン3について、液滴から凝集体になる過程の構造変化を観測することに成功しました。

 本手法により、薬剤添加に伴う液滴内のタンパク質の構造変化を観測することも可能です。今後、本手法は疾患に対する薬剤効果の検証など、創薬に応用できると期待されます。

 本成果は2023年4月19日(水)に科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

図 1. 液-液相分離により生成したアタキシン3(Q28)の液滴の明視野画像と自家蛍光画像。時間の経過とともに液滴が真円形から歪んだ形状となり、最終的に凝集体となりました。液滴や凝集体に強い自家蛍光が観測されることから、それらの内部にタンパク質が局在していると考えられます。

【用語解説】

注1 神経変性疾患
脳や脊髄の神経細胞の機能不全を原因とする疾患の総称です。運動障害や記憶障害が主たる症状であり、代表的なものに筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病、アルツハイマー病などがあります。いずれの疾患においても特定のタンパク質の凝集体が神経細胞内に堆積することが原因であると言われています。

注2 マシャドジョセフ病
小脳の神経細胞の機能不全により引き起こされる脊髄小脳変性症の一つです。マシャドジョセフ病はその中でも日本人に最もよく見られる疾患です。歩行時のふらつきやろれつが回らないなどといった運動失調を特徴とした疾患であり、根本的な治療法はまだ確立していません。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 中林孝和
TEL: 022-795-6855
E-mail: takakazu.nakabayashi.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
総務係
TEL: 022-795-6801
E-mail: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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