2023年 | プレスリリース?研究成果
X線自由電子レーザーで捉えたビフィズス菌酵素の常温構造 -局所的な構造変化から示唆された酵素反応メカニズム-
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所
教授 南後恵理子
研究室ウェブサイト
【概要】
理化学研究所(理研)放射光科学研究センター利用技術開拓研究部門SACLA利用技術開拓グループの岩田想グループディレクター(京都大学大学院医学研究科教授)、分子動画研究チームの南後恵理子チームリーダー(東北大学多元物質科学研究所教授)、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ実験技術開発チームの登野健介チームリーダーらの共同研究グループは、ビフィズス菌の解糖系[1]酵素の立体構造を常温下で決定し、その酵素の反応メカニズムに関する新たな知見を見いだしました。
本研究成果は、生理的環境下に近いタンパク質構造を取得することで、酵素反応メカニズムの解明に有用な情報が増える可能性を示しており、各種酵素の高機能化設計などを通して、酵素の産業利用の高度化に貢献すると期待できます。
今回、共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)[2]施設「SACLA」[3]において連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)法[4]により、ビフィズス菌の解糖系酵素の一つであるホスホケトラーゼ[5]の常温構造解析に成功しました。その結果、ホスホケトラーゼの活性部位の入り口に位置する小さなループ状構造が、従来の極低温構造とは異なっていることを発見しました。同時に実施した阻害剤との複合体構造の特徴も踏まえた考察により、ホスホケトラーゼの反応メカニズムに関する新たな知見を得ることができました。解析に必要なホスホケトラーゼの微小結晶は光誘起タンパク質結晶化プレート[6]を用いて取得し、この結晶化法がSACLAでの構造解析の効率化に有効であることも分かりました。
本研究はSACLA産学連携プログラムにて行われ、科学雑誌『Acta Crystallographica Section D』オンライン版(3月28日付)に掲載されました。
構造変化が観測されたQNループ構造(常温構造はオレンジ色、極低温構造は水色で示す)
【用語解説】
[1] 解糖系
グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解する代謝経路。最も基本的な代謝系の一つ。エムデン-マイヤーホフ経路は最も一般的な解糖系として知られており、ほとんどの真核生物や嫌気性細菌ではこの経路が用いられている。ホスホケトラーゼは、乳酸菌、酵母、カビなど一部の微生物に存在する特殊な解糖系であるビフィドシャント(bifid shunt)で中心的な役割を担う酵素である。
[2] X線自由電子レーザー(XFEL)
X線領域におけるレーザーのこと。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限はない。また、数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の超短パルスを出力する。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。
[3] 「SACLA」
理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。コンパクトな施設の規模にもかかわらず、0.1nm以下という世界最短波長クラスのレーザーの生成能力を持つ。
[4] 連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)法
多数の微結晶を含む液体などをインジェクター(試料輸送装置)から噴出しながら、X線レーザーを照射し結晶の構造を解析する手法。配向の異なる多数の微結晶からの回折イメージを連続的に収集する。SFXはSerial Femtosecond Crystallographyの略。
[5] ホスホケトラーゼ
チアミン二リン酸(TPP)を補酵素とする酵素群の一種。キシルロース5-リン酸(またはフルクトース6-リン酸)とリン酸からグリセルアルデヒド3-リン酸(またはエリスロース4-リン酸)と水とアセチルリン酸を生成する反応を触媒する酵素。
[6] 光誘起タンパク質結晶化プレート
ポケット部に金ナノ膜加工を施したタンパク質結晶化プレート。このプレートに光照射を行うと、金ナノ粒子に表面プラズモン共鳴が誘起され、金に吸着していたタンパク質分子の濃縮と配向が進行して、タンパク質結晶の核形成が促進され、結晶化期間の短縮が実現するとされている。群馬大学の奥津教授らにより開発され(Veesler, S., et al., & Okutsu, T. (2006). Cryst. Growth Des. 6, 1631-1635)、富士フイルム和光純薬株式会社(研究当時:和光純薬工業株式会社)から製品化された。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 南後 恵理子(なんご えりこ)
TEL: 022-217-5344
E-mail: eriko.nango.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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