2023年 | プレスリリース?研究成果
水分解の高効率化と低コスト化につながる新しいペロブスカイト触媒を開発 -水素エネルギー社会構築への貢献に期待-
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 教授 本間格
助教 岩瀬和至
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- バリウム(Ba)、鉄(Fe)、コバルト(Co)を含むペロブスカイト酸化物(注1) にフッ素(F)置換を行うことで、電気化学的水分解に重要な酸素発生反応の活性を向上させました。
- 低温フッ素化処理により酸化物イオンがフッ化物イオンに置換されることで、金属元素(特にコバルト)の価数が変化したことが活性向上の主要因です。
- 今後の水分解触媒も含めた触媒の高活性化の新たな設計指針として有用と考えられます。
【概要】
近年、持続可能な社会の実現に向け、再生可能エネルギーで得られた電力を用いた電気化学的酸素発生反応(Oxygen evolution reaction, OER)による水素製造が注目されています。貴金属のイリジウム(Ir)やルテニウム(Ru)を含む酸化物がOERを高効率で進めることが知られていますが、貴金属は高価で資源量が限られるため安価な非貴金属のみからなる高活性OER触媒の開発が必要です。
金属イオン(Mn+)と酸化物イオン(O2?)から構成されるペロブスカイト酸化物は、非貴金属のみでも高いOER活性を示すことから近年注目されています。ペロブスカイト酸化物中のO2?をサイズ及び電荷の異なるフッ化物イオン(F?)で置換することでOER活性を向上させる手法においては、前駆体原料の高温熱処理による触媒合成が主流でした。しかしながら、従来の700℃以上の高温熱処理ではフッ素の脱離が起こりやすくF?の置換量が概ね数%以下と少ないため、F置換がOER活性に与える影響は限定的でした。
東北大学多元物質科学研究所の本間格教授と岩瀬和至助教らの研究グループは、従来の触媒合成法と比較して低温である400 °Cでバリウム(Ba)、鉄(Fe)、コバルト(Co)からなるペロブスカイト酸化物へF?置換を行うことで、F?の置換量を従来のOER触媒と比較して一桁向上させました。その大きなF?置換量により金属イオンの価数が大きく変化することで、OER活性が最大4倍程度(水分解反応全体で、2~4倍程度の性能向上と推定)まで向上することを見出しました。金属元素の価数はOER活性を決める重要な要素であることから、本研究で得られた知見は、今後の新規OER触媒の設計?合成に有用であると期待できます。
本成果は2023年3月24日(現地時間)に米国化学会の雑誌、Chemistry of Materials誌のオンライン版に掲載されました。
図1.(a) BaFe0.8Co0.2O2Fの走査型透過電子顕微鏡(STEM)像。赤で示すBaと、緑で示すFが均一であり、触媒内に均一にF?が置換されていることを示す、(b) BaFe0.8Co0.2O3にF置換を行う前後のCo K端のXANESスペクトル。F置換によりスペクトルが低エネルギー側にシフトし、青の点線で囲んだプレピークの強度が減少していることから、Coが還元され価数が減少したことが示唆される。(c)本研究で開発した触媒によるOER活性向上の模式図。それぞれの球の色は、記載の元素の種類に対応。
【用語解説】
注1. ペロブスカイト酸化物:
酸化物のうち、ペロブスカイト構造という特定の結晶構造を有する酸化物のことを指す。多くの場合、アルカリ土類金属元素と遷移金属元素、酸化物イオン(O2?)から構成される。
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(*を@に置き換えてください)
東北大学多元物質科学研究所
助教 岩瀬和至
TEL: 022-217-5816
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