本文へ
ここから本文です

タンパク質のアミノ酸残基選択的ラベル化を可能とする光駆動型人工金属酵素の開発 働く環境の変化で潜在能力を引き出す

【本学研究者情報】

〇学際科学フロンティア研究所新領域創成研究部 助教 岡本泰典
研究室ウェブサイト

〇学際科学フロンティア研究所新領域創成研究部 助教 馬渕拓哉
研究室ウェブサイト

〇学際科学フロンティア研究所新領域創成研究部 助教 佐藤伸一
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • タンパク質の内部空間に金属錯体(注1)を導入すること(人工酵素化)で人工金属酵素(注2)は構築されます。本研究では、金属錯体に潜在している光化学特性を人工酵素化によって引き出した光駆動型人工金属酵素の構築に成功しました。
  • タンパク質内外で切り替わる金属錯体の光化学特性を利用し、本来競合しうるタンパク質の二つのアミノ酸残基のラベル化(注3)を選択的に進行させることができました。
  • 光駆動型人工金属酵素のさらなる最適化によって、生命科学や創薬研究において重要な「生体分子の部位特異的な修飾法」の開発に繋がることが期待されます。

【概要】

人類が開発してきた合成金属触媒と自然界で進化してきた生体触媒(酵素)の利点を組み合わせることを目的として人工金属酵素の研究が進められています。人工金属酵素は合成金属触媒(金属錯体)をタンパク質の内部空間に導入することで構築されます。今回、東北大学学際科学フロンティア研究所の岡本泰典助教、佐藤伸一助教、馬渕拓哉助教らは、光駆動型人工金属酵素の開発に成功しました。

本研究の人工金属酵素を構成するルテニウム錯体は非発光性ですが、タンパク質の内部空間に導入されることで発光するようになります。研究チームは、このルテニウム錯体の光化学特性の変化から、ルテニウム錯体単独と人工酵素化されたものでは異なる光触媒能を発揮すると予想しました。実験の結果、ルテニウム錯体単独では光駆動型の一電子移動反応(注4)を、人工酵素化されたものではエネルギー移動反応(注5)を優先的に進行させることを見出しました。さらには、この反応タイプの切り替えをタンパク質のアミノ酸残基の選択的ラベル化に応用しました。本成果は、生命科学や創薬研究で重要な技術である「生体分子の部位特異的なラベル化」に人工金属酵素が貢献できる可能性を示すものです。

本研究成果は、米国化学会の専門誌『ACS Catalysis』に2023年3月16日(米国時間)付で掲載され、同誌のSupplementary Coverにも選出されています。

図1:(a)触媒の役割と(b)人工金属酵素の構成要素

【用語解説】

注1. 金属錯体と配位子
金属錯体とは金属イオンとそれに結合した分子(配位子)の複合体を指す。

注2. 人工金属酵素
人工金属酵素は①タンパク質の内部空間に人工的に造られた金属錯体を導入すること、あるいは②タンパク質の内部空間に金属イオンの結合部位を人為的に設計することで構築され、物質変換能を示す。

注3. タンパク質のラベル化
タンパク質を人工的な化学物質で修飾すること。本研究では佐藤らが以前に開発したMAUra(1-メチル-4-アリル-ウラゾール)という化学構造を有する物質を光駆動型人工金属酵素によってターゲットとするタンパク質に修飾した。

注4. 一電子移動反応
2つの化合物間で一電子の移動が起こる反応。

注5. エネルギー移動反応
分子のとりうる状態のうち、最もエネルギーの低い状態を基底状態といい、それよりもエネルギー的に高い状態を励起状態という。エネルギー移動反応は、励起状態にある分子から、それよりもエネルギー的に低い状態にある別の分子へとエネルギーが移動する反応を指す。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学学際科学フロンティア研究所
助教 岡本 泰典(おかもと やすのり)
電話 : 022-795-5264
E-mail : yasunori.okamoto*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学学際科学フロンティア研究所
特任准教授 藤原 英明(ふじわら ひであき)
電話 : 022-795-5259
E-mail : hideaki*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています