2023年 | プレスリリース?研究成果
無機ナノファイバーに金属原子を挿入する技術を開発 ?次世代のエレクトロニクス応用に期待?
【本学研究者情報】
〇大学院理学研究科物理学専攻
教授 齋藤理一郎
研究室ウェブサイト
東京都立大学 理学研究科物理学専攻の夏井隆佑(大学院生)、清水宏(大学院生)、中西勇介助教、島村燿人(学部生)、遠藤尚彦(研究員)、宮田耕充准教授、産業技術総合研究所 材料?化学領域 極限機能材料研究部門の劉崢上級主任研究員、ナノ材料研究部門の林永昌主任研究員、東北大学 学際科学フロンティア研究所 兼務 東北大学大学院 理学研究科物理学専攻のNguyen Tuan Hung助教、東北大学大学院 理学研究科物理学専攻の齋藤理一郎教授、名古屋大学 工学研究科応用物理学専攻の菊地伊織(大学院生)、蒲江助教、竹延大志教授、筑波大学 数理物理系の岡田晋教授、大阪大学 産業科学研究所の末永和知教授らの研究チームは、直径数?数十ナノメートル程度の遷移金属モノカルコゲナイド(TMC)のナノファイバーの内部に金属原子を効率的に挿入する技術を開発しました。原子分解能電子顕微鏡により、インジウム(In)原子が挿入された結晶構造を直接観察しました。このような金属原子の挿入技術の確立は、金属原子とTMCナノファイバーの多彩な組み合わせによる新材料?新機能の実現や超伝導特性の発現につながることが期待されます。今後、新たな三元系TMCの実現や合成技術の高度化により、柔軟な構造を有する超伝導ファイバーをはじめ、微細な配線?透明電極?導電性複合材料などの応用開発も期待されます。
【発表のポイント】
- 遷移金属モノカルコゲナイド(TMC)のナノファイバーの内部に金属原子を挿入する技術を開発。
- 原子分解能電子顕微鏡で断面を直接観察することにより、挿入されたIn原子の位置を特定。
- しなやかで安定な繊維状超伝導体の実現に向けた基盤技術として期待。
【概要】
近年、次世代の機能性材料として、ナノメートル単位の直径をもつ細線状のナノ材料が注目を集めています。特に、代表的な細線状のナノ材料であるカーボンナノチューブ(CNT)は、強靭な力学特性や高い電気伝導度を示すことから、CNTによる微細な配線や電子デバイスなど、様々なエレクトロニクス応用に向けた研究が進展してきました。一方、CNTは異なる直径や原子配列をもつ構造の混合物として合成されるため、得られる試料は一般に不均一な構造のCNTの混合物となります。構造が均一な細線状のナノ材料の実現およびその結晶構造と物性の制御は、応用研究に向けた課題であり、また基礎学術の面でも興味深い研究対象となっています。
均一な結晶構造をもつ細線状ナノ材料の候補として、遷移金属モノカルコゲナイド(TMC)(注1)が知られています。また、多数のTMC細線が束になった結晶の隙間に、アルカリ金属などが挿入された構造として、三元系TMCと呼ばれる物質が存在します(図1)。三元系TMCは約40年前に発見され、挿入する原子の種類によっては超伝導を示すことも報告されていました。このナノファイバーは、高い電気伝導度を利用した微細な配線や導電性をもつ複合材料などへの応用も期待されています。従来の研究では、固体原料を高温で焼結して三元系TMCの結晶が合成されていました。しかし、この手法では、基礎?応用的にも興味深い長尺なファイバーやそのネットワーク薄膜、そしてナノサイズの厚みをもつ極薄なファイバーなどの合成は困難です。そこで、新たな三元系TMCナノファイバーの合成法の開発が望まれていました。
上記の三元系TMCの研究とは別に、ごく最近になり、高い結晶性をもつ二元系のTMCナノファイバーの直接合成が可能になりました。本研究チームの中西助教と劉崢上級主任研究員らは、2019年にCNT内部に単一Mo6Te6細線の合成に成功しました。また、2020年には、本研究チームの中西助教と宮田准教授らは、化学気相成長法(注2)を利用したW6Te6やMo6Te6などのTMC細線からなるナノファイバーの大面積合成法を開発しました(https://www.tmu.ac.jp/news/topics/30557.html)。二元系TMCが束状になった結晶では、個々の細線間に数オングストローム程度の空隙が存在します。この空隙に金属原子を挿入できれば、二元系TMCから三元系TMCを作製できます。しかし、実際に金属原子が侵入できるかどうかは実証されていませんでした。今回、研究チームは、二元系TMCのナノファイバーを出発原料にして、金属原子の挿入による三元系TMCナノファイバーの実現を試みました。
本研究成果は、2月24日付けでアメリカ化学会が発行する英文誌『ACS Nano』にて発表されました。
図1 (a)三元系TMCの結晶、(b)単一のTMC原子細線の模式図。緑色が遷移金属原子、橙色がカルコゲン原子、紫色が挿入原子に対応する。
【用語解説】
(注1)遷移金属モノカルコゲナイド
タングステンやモリブデンなどの遷移金属原子と、硫黄やセレンなどのカルコゲン原子で構成される細線状の化合物。遷移金属とカルコゲンが1:1の比率で含まれ、組成はM6X6と表される。
(注2)化学気相成長法
原料となる材料を昇華させ、加熱された基板上に供給することにより、薄膜や細線を成長させる合成技術。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院 理学研究科
教授 齋藤理一郎(さいとう りいちろう)
TEL:022-795-7754
E-mail:rsaito*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院 理学研究科?理学部 広報?アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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