2023年 | プレスリリース?研究成果
がんに起因して起こる宿主の肝臓の急性期応答と炎症 血清アミロイドαは乳がんモデルにおける肝臓の炎症の原因ではない
【本学研究者情報】
〇加齢医学研究所生体情報解析分野 准教授 河岡慎平
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 乳がんをもつマウスの肝臓では急性期応答と炎症が同時に観察されます
- がんによる急性期応答と炎症には因果関係があると示唆されてきました
- 急性期応答タンパク質Saa1-2と炎症の関係を調べました
- 本モデルにおいてはSaa1-2がなくとも炎症が起こることがわかりました
【概要】
がんをもつ個体では肝臓で急性期応答 (注1) と炎症 (注2) が起こることが知られています。急性期応答とは、感染やがんなどによって肝臓で急性期応答タンパク質が作られ、これらのタンパク質濃度が血中で著しく増えることをいいます。血清アミロイドα (注3) は急性期応答タンパク質の代表の一つです。これらのタンパク質は炎症を惹起すると考えられています。実際、血清アミロイドαと炎症マーカーの量は強く相関します。その一方で、がんをもつ個体の肝臓における炎症に対して血清アミロイドαがどの程度寄与するのかについての検討は十分ではありませんでした。
東北大学加齢医学研究所 河岡慎平准教授 (兼務:京都大学 医生物学研究所) と京都大学医学部附属病院乳腺外科 河口浩介助教の研究チームは、血清アミロイドαを完全に失わせたマウスを作製し、血清アミロイドαががんによる肝臓の炎症に重要なのかどうかを検証しました。その結果、血清アミロイドαがなくても肝臓の炎症が起こることがわかりました。この発見は、遺伝子発現レベルでの因果関係があるように見えても機能的な因果関係がない場合があることを示す例といえます。本研究により、がんが引き起こす炎症と急性期応答の因果関係に関する理解が深まることが期待されます。
本研究成果は2023年2月3日にスイスの学術誌であるFrontiers in Immunologyに掲載されました。
図1. Saa1およびSaa2の発現量と免疫細胞マーカーの発現量との強い相関
【用語解説】
(注1) 急性期応答
がんの存在や感染に肝細胞が応答し、免疫系を活性化する分子を多量に産生するようになります。例えば血清アミロイドαはそのような分子の一つです。これらの分子 (この場合タンパク質) は血液に放出され、血中における濃度が急激に高まります。この現象のことを急性期応答と言います。
(注2) 炎症
感染や創傷などの刺激に対して免疫細胞が活性化され、そのような免疫細胞がダメージを受けた組織に集まってくることを指して炎症といいます。今回の乳がんモデルでは、がんによって活性化された好中球などの免疫細胞が肝臓に集まってきます。このことを肝臓の炎症と記載しています。
(注3) 血清アミロイドα
英語でSerum amyloid alpha (SAA) といいます。マウスの場合には Saa1からSaa4までのSaa遺伝子が存在しています。このうち、Saa1とSaa2は非常によくにた遺伝子であり、機能が重複していると考えられています。本研究では、Saa1とSaa2の両方を完全に欠失させたマウスを作りました。
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所 生体情報解析分野
担当 河岡 慎平
電話 022-717-8568
E-mail shinpei.kawaoka.c1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所 広報情報室
電話 022-717-8443
E-mail ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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