2023年 | プレスリリース?研究成果
超硫黄分子種による抗酸化作用を発見 ―フリーラジカルを消去して脂質酸化を抑制―
【本学研究者情報】
〇薬学研究科 教授 斎藤芳郎
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 超硫黄分子種注1によるフリーラジカル注2消去作用を発見し、脂質酸化注3を抑制することを明らかにしました。
- 硫黄分子種によるフリーラジカル消去作用は、代表的な抗酸化物質であるビタミンE誘導体Trolox注4よりも強力であることを明らかにしました。
- 超硫黄分子種は、動脈硬化との関連性が知られている血中の脂質酸化を効果的に抑制することを明らかにしました。
【概要】
生物の体内に取り込まれた酸素の一部は、反応性の高い酸素である"活性酸素種"となることが知られています。活性酸素種の中でも非常に反応性が高いフリーラジカルは、脂質など様々な生体成分を酸化します。脂質の酸化は、動脈硬化や神経変性疾患など多様な疾患の原因となるため、適切に抑制する必要があります。
超硫黄分子種は、硫黄が連なった構造を持つ化合物の総称で、生体内に豊富に存在し、多様な生理機能を持つことが明らかとなってきました。超硫黄分子種は、過剰な活性酸素種によって誘導される酸化ストレス注5に対して防御的に働くことが知られていますが、フリーラジカルや脂質酸化との関係は不明でした。
東北大学大学院薬学研究科の金子尚志助手と斎藤芳郎教授、およびの共同研究グループは、超硫黄分子種がフリーラジカルを消去し、脂質の酸化を抑制できることを見出しました。またこの作用は、連結する硫黄数の増加に伴って増強されることを発見しました。これらのことから、超硫黄分子種は生体内でフリーラジカルを消去し、脂質酸化による酸化ストレスを抑制すると考えられます。本研究から得られた結果は、これまで不明瞭だった超硫黄分子種によるフリーラジカル消去作用および脂質酸化抑制効果を定量的に解明したものであり、超硫黄分子種による抗酸化作用を考える上で基盤となる知見です。今後、超硫黄分子種を増加させることで酸化ストレスに起因する疾患の予防へとつながることが期待されます。
本研究成果は、2023年1月11日(水曜日)に英国科学誌『Free Radical 虎扑电竞』にオンライン掲載されました。
【用語解説】
注1 超硫黄分子種
硫黄原子が2個以上連なった構造をもつ化合物の総称。近年生体内での検出方法が確立され、タンパク質のシステインや抗酸化物質グルタチオンの超硫黄化を介して、酸化ストレス防御に重要な役割を担っていると考えられている。
注2 フリーラジカル
不対電子を持つ分子種で、特に酸素由来のフリーラジカルとしてスーパーオキサイド、ヒドロキシラジカルによる酸化ストレスが研究されてきた。生体内において、上述のラジカル種の他に脂溶性の高い脂質ラジカルや脂質ペルオキシラジカルが存在しており、これらによる連鎖的な脂質酸化反応によって惹起される細胞死"フェロトーシス"が注目を集めている。
注3 脂質酸化
脂肪酸が活性酸素種やフリーラジカルによって酸化されると、過酸化脂質が生じる。特に、酸素原子が2個連なった過酸化脂質は非常に反応性が高く容易にDNAやタンパク質を修飾し、本来の機能を阻害することが知られている。
注4 Trolox
脂溶性ビタミンであり抗酸化物質として知られるビタミンEの水溶性類縁体。抗酸化能を比較する種々の試験で、Troloxの抗酸化能を基準として評価することが多い。
注5 酸化ストレス
反応性の高い酸素由来の分子群"活性酸素種"により、生体分子の酸化反応が亢進した状態を表す。低レベルの活性酸素種は生理的なシグナル伝達において重要な役割を果たしているが、過剰な活性酸素種による酸化ストレスは組織や細胞を傷害することで種々の疾患の原因となる。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 斎藤芳郎
電話 022-795-6870
E-mail yoshiro.saito.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部 総務係
電話 022-795-6801
E-mail ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています