2023年 | プレスリリース?研究成果
二酸化炭素の吸着で磁石になる多孔質材料を開発 ~ガス吸着に伴う構造変化に起因する磁気相変換は世界初~
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 教授 宮坂等
准教授 高坂亘
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 二酸化炭素の吸着により、磁石でない状態(反強磁性体※1)から磁石(フェリ磁性体※2)へと変換可能な層状多孔性材料の開発に成功しました。
- 二酸化炭素吸着に伴う層間距離※3の伸長により、磁石層間の磁気相互作用が反転し、磁石へと変化することを明らかにしました。
- ガス吸着に伴う構造変化のみに起因する磁気相変換は世界初であり、他の層状構造を持つ磁性材料への本機構の応用が期待されます。
【概要】
活性炭や珪藻土、シリカゲルなどの「多孔質材料」は、微細な大きさの空孔を持つ材料で、様々な物質を吸着しやすい性質を持ちます。この性質を活かして、日常生活では脱臭剤や乾燥剤などで身近に使われ、また工業的には物質の吸着?分離などで幅広く応用展開されています。
国立大学法人東北大学金属材料研究所の高坂亘准教授と宮坂等教授の研究グループは、近畿大学理工学部の杉本邦久教授および公益財団法人高輝度光科学研究センターの河口彰吾主幹研究員との共同研究により、二酸化炭素の吸脱着で磁化のON?OFFが可能な多孔性材料の開発に成功し、その磁気相変換の機構が層状磁石の層間構造変化によることを明らかにしました。一般的なガス分子の吸着に伴う構造変化のみで磁気相を変換する磁石は初めての例です。
今回開発した材料は分子性多孔性材料※4の一種で、磁石として機能する二次元層が連なった構造を持ち、その層の間にガス分子を出し入れできるのが特徴です。元々、この分子性多孔性材料は反強磁性体と呼ばれる磁気秩序※5を示し、一般的な磁石としての性質※6を示しませんが、二酸化炭素の吸着により磁石となる(磁石になる相転移温度は76 K)ことを確認しました※7。逆にこの材料は、真空加熱処理で二酸化炭素を脱離させることにより、元の反強磁性体へと戻ります。本現象は、二酸化炭素の吸着により化合物の層間距離が伸長し、それに伴い磁石層間の磁気相互作用が反転することで生じたものです。一般的にどこにでも存在するガス分子の吸着に伴う構造変化のみに起因する可逆磁気相変換はこれまで例はありません。磁気相転移温度はまだ低いですが、「構造変化」は従来の機構※8に比べると単純な機構であることから、層状構造を持つ他の磁性材料へ幅広く応用可能であり、これを利用した分子認識磁石センサーや分子応答磁気ジャンクション等、今後の発展が期待されます。
本研究成果は、2023年1月25日(現地時間)に、英国王立化学会誌「Chemical Science」に正式にオンライン掲載されました。
図 二酸化炭素(CO2)の吸着で磁気相を変える分子多孔性材料
【用語解説】
※1 反強磁性体
物質中の電子スピン間に磁気的な相互作用が働き、それが三次元的に長距離に及ぶことにより磁石となります。一般的な磁石は通常、強磁性体、あるいはフェリ磁性体のどちらかです。磁石には磁気相転移温度※15が存在し、それより高い温度領域では常磁性体※16となります。しかし、隣接する電子スピン同士が逆方向を向く相互作用(反強磁性的相互作用)が働き互いに打ち消し合う場合には、物質全体としては磁化を持たず、通常の意味での磁石とはなりません。このような物質のことを反強磁性体といいます。反強磁性体にも磁気相転移温度が存在し、それより高い温度領域では常磁性体となります。
※2 フェリ磁性体
隣接スピン同士が逆方向を向く相互作用が働いている場合でも、スピンの大きさが異なるため、その差分により物質全体としては磁石になる物質をフェリ磁性体と言います。
※3 層間距離
ここで言う層間距離とは、結晶構造中の分子配向を考慮して、実際の層間距離を補正した値のことですが、今回の化合物の場合は補正前後で値に大きな差はありませんので、単純に磁性層間の距離と考えて問題ありません。
※4 分子性多孔性材料
ゼオライトや活性炭、シリカゲルのような無機物のみから構成される従来の多孔性材料に対して、金属イオンと有機配位子から構成される多孔性材料の総称です。金属?有機複合骨格(Metal?Organic Framework; MOF)や多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP)などと呼称されます。金属イオンの配位環境と有機物の持つ高い分子設計性に特徴があり、ナノサイズの細孔を利用した気体吸蔵?分離?触媒?センサーなどの分野での応用が期待されています。
※5 磁気秩序
常磁性、強磁性、反強磁性、フェリ磁性をはじめとする様々な電子スピンの配列の様式(磁気秩序状態)を総称して磁気相といいます。常磁性は磁気秩序を持たない状態であり、強磁性、反強磁性、フェリ磁性は磁気秩序を持つ状態です。磁石として機能するのは、強磁性、フェリ磁性の磁気秩序状態であり、反強磁性は、通常の意味での磁石としての機能は持たない磁気秩序状態になります。
※6 磁石としての性質
ここでは、磁石を近づけた時に、磁石にくっつく性質を持つ物質を、「磁石としての性質を持つ物質」すなわち「磁石」とみなします。磁気秩序を持たない物質(常磁性体)は、「磁石」ではありません。磁気秩序を持つ物質のうち、強磁性体、フェリ磁性体は「磁石」ですが、反強磁性体は「磁石」ではありません。
※7 多孔性磁石
以前にも二酸化炭素を利用した多孔性磁石を報告していますが(東北大学プレスリリース2020年12月1日)、こちらは二酸化炭素吸着により磁石を磁石でない物質に変える材料であり、今回の材料とは逆の機能を持ちます。他にも酸素や有機溶媒蒸気、ヨウ素分子の吸脱着を利用した磁石のON-OFF(磁気相変換)が可能な材料が、これまでの研究において見出されていました。
※8 従来の磁気相変換の機構
これまでに見出されてきた磁気相変換では、「小分子吸着に伴う格子の電子状態変化」あるいは「吸着酸素の電子スピンによる新たな磁気相互作用経路の創出」という機構が見出されています。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
錯体物性化学研究部門
教授 宮坂 等(ミヤサカ ヒトシ)
電話 022-215-2030
E-mail miyasaka*imr.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
電話 022-215-2144
E-mail press.imr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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