2022年 | プレスリリース?研究成果
物質の熱伝導率を低減させる新機構を発見 -高性能な熱電材料開発の新たな指針に-
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 山田高広 教授
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- トンネル空間の中に原子鎖が内包された結晶構造を有する金属間化合物が、著しく低い熱伝導率と高い熱電特性を有することを実証した。
- 原子鎖を構成する原子がトンネルの伸長方向に沿って大きな振幅で振動(ラットリング(*1))しており、それらラットリング原子間の距離が近い化合物ほど熱伝導率が低下することを実験と理論計算により見出した。
- 熱電材料(*2)の性能は熱伝導率が低いものほど向上するため、この熱伝導率の低減機構は、高性能な熱電材料開発の新たな指針となることが期待される。
【概要】
物質の熱の伝わりやすさである熱伝導率を制御することは、放熱や断熱といった生活に身近な応用に加えて、電子デバイスの高性能化や自動車等の省エネルギー化、また発電効率や各種の材料特性の向上など、熱に関する様々な課題解決や熱エネルギーの有効利用に欠かせないサーマルマネージメント技術の一つとして注目されています。
東北大学多元物質科学研究所の山田高広教授、山根久典教授、同大学院工学研究科の菅野雅博博士課程学生(研究当時)、大阪大学大学院工学研究科の吉矢真人教授、京都大学大学院工学研究科の高津浩講師、陰山洋教授、産業技術総合研究所化学プロセス研究部門の池田拓史上級主任研究員と省エネルギー研究部門の永井秀明主任研究員らの研究グループは、金属間化合物の結晶構造内のトンネル空間に配置した原子が、大きな振幅で振動しながら互いに強く相関することにより、物質の熱伝導率が著しく低減する現象を、実験および理論計算より明らかにしました。
本研究により見出された熱伝導率の新しい低減機構は、エネルギー変換デバイスとして様々な領域での活用が期待される高性能な熱電材料の開発の新たな指針となることが期待されます。
本研究成果は、2022年12月17日付けで、ドイツ科学雑誌 Advanced Materialsのオンライン版に掲載されました。
概略図 結晶構造内にトンネル空間を有した金属間化合物(Na-;-Sn系化合物, XはAl, Ga, In, Zn)では、トンネル内のNa原子はトンネルの伸長方向に沿って大きな振幅で振動(ラットリング)しており、それらNa原子の局所的な原子間距離(GNa-Na)が近い化合物ほど格子熱伝導率が低下することが明らかにされました。トンネル内の原子鎖様のラットリング原子が互いに強く相関することによって引き起こされる、熱伝導率の新しい低減機構です。
【用語解説】
注1.ラットリング
結晶の中の原子が異常に大きな振幅で振動する現象。これにより格子を伝わる熱を散乱し、熱伝導率を大きく減少させる効果があると考えられています。この現象の多くは、カゴ状の大きな空間(隙間)に配置した原子に観察されますが、その本質は未だ十分に理解されていません。
注2.熱電材料
物質に温度差を生じさせると、それに比例した電位差(熱起電力)が発生します。この現象(ゼーベック効果)を利用して、廃熱などの未利用熱を電気エネルギーに変換する材料が熱電材料です。また、熱電材料に電流を流すことにより温度差を生じさせる現象(ペルチェ効果)を用いて、電子冷却や温度制御を行う応用例もあります。熱電材料の性能は、単位温度差当たりの熱起電力(熱電能)が大きくて電気を流しやすく、熱を伝えにくいものほど高くなります。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 山田 高広(やまだ たかひろ)
電話 022-217-5138
E-mail takahiro.yamada.b4*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
広報情報室
電話 022-217-5198
E-mail press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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