2022年 | プレスリリース?研究成果
高輝度放射光で解き明かすシリコン酸化膜の成長過程 ~ナノデバイスの世界を支配する界面欠陥とキャリア捕獲~
【本学研究者情報】
〇国際放射光イノベーションスマート研究センター(兼)多元物質科学研究所 助教 小川修一
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 半導体デバイスの作製には、酸化反応を制御し、欠陥の少ない良質なシリコン酸化膜を作製することが不可欠。しかし、ナノレベルの薄膜領域におけるシリコン酸化反応機構の理解は不十分。
- シリコン表面に極薄酸化膜が成長する過程をSPring-8の放射光を用いてリアルタイム観察。その結果、酸化膜とシリコン基板の界面にある欠陥で酸素分子が反応する時、シリコン基板のキャリアが関与することを発見。
- 本成果は、シリコンを用いた半導体デバイスの省電力化、小型化、信頼性向上に貢献。
【概要】
日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下、「原子力機構」という。)物質科学研究センター エネルギー材料研究グループ 津田泰孝 博士研究員、吉越章隆 研究主幹、および東北大学(総長 大野英男、以下「東北大学」という。)マイクロシステム融合研究開発センター 高桑雄二 教授、国際放射光イノベーション?スマート研究センター、兼 多元物質科学研究所 小川修一 助教、ならびに福井工業高等専門学校(校長 田村隆弘、以下「福井高専」という。)、山本幸男 教授らの研究グループは、シリコン酸化膜の成長メカニズムをSPring-8の高輝度放射光を用いたリアルタイム光電子分光法観察により明らかにしました。
シリコン(Si)は、現代の半導体産業を支える最も基本的な材料の一つです。コンピュータの演算を司る集積回路中にはSi基板を酸化して作られる素子、「トランジスタ注1」が無数に搭載されており、近年その数は数十億個に達しています。それにともない、トランジスタ一つ当たりの大きさは極めて微小となっているため、酸化反応を精密に制御し、欠陥の少ない良質な酸化膜をSi基板上に作製することが求められています。一方で、そのような原子レベルの膜厚領域における酸化反応機構は十分に理解されていませんでした。
本研究では、SPring-8の放射光を用いたリアルタイム観察によって、ナノレベルの世界で進行するSi酸化反応を逐次追跡しました。その結果、これまで酸化には無関係と思われていた電子や正孔などのキャリア注2が関与する反応機構を世界で初めて明らかにしました。
これまで知られていなかったSi酸化反応を支配する機構を明らかにした本研究により、微細構造化が進むシリコンデバイスの省電力化、小型化、信頼性向上に貢献できると期待されます。
本成果は原子力機構、東北大学、福井高専との共同研究で行われ、12月20日(日本時間)に「Journal of Chemical Physics」にオンライン掲載されました。
図1. SiO2/Si界面におけるO2の反応過程の模式図
【用語解説】
注1.トランジスタ
信号の増幅や回路のオン?オフにより電気信号を制御する半導体素子の一つです。特に、半導体基板と酸化膜、金属電極から構成される金属-酸化膜-半導体 電界効果トランジスタ (metal-oxide-semiconductor field-effect transistor: MOSFET)が集積回路などでは一般的に使用されます。
注2.キャリア
半導体内部で電気の伝導に寄与する電子(負電荷)および正孔(正電荷)のことです。Siなどの半導体は、キャリアを発生させることのできる不純物を添加(ドーピング)することで物理的特性を制御することができます。主に電子がキャリアとなる半導体はn型半導体、主に正孔がキャリアとなる半導体はp型半導体と呼ばれます。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学マイクロシステム融合研究開発センター
教授 高桑 雄二 (たかくわ ゆうじ)
E-mail yuji.takakuwa.b7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学国際放射光イノベーション?スマート研究センター(兼)多元物質科学研究所
助教 小川 修一 (おがわ しゅういち)
E-mail ogasyu*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター
教授 戸津 健太郎 (とつ けんたろう)
電話 022-229-5367
E-mail kentaro.totsu.e4*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学多元物質科学研究所
広報情報室
電話 022-217-5198
E-mail press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)