2022年 | プレスリリース?研究成果
妊娠中血中代謝物による産後うつ症状の予測 -健やかな母子家庭環境を維持するために-
【本学研究者情報】
〇医学系研究科精神神経学分野 講師 兪志前
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 世界に先駆けて産後うつ症状に焦点をあてて妊産婦の血漿メタボローム注1を大規模に解析した。
- 妊娠中後期に比べて産後は多くの血漿メタボロームが上昇し、産後うつ注2に関連して血漿中のクエン酸回路注3の代謝異常が生じていた。
- 血漿中の代謝産物から産後うつ症状を機械学習注4により予測でき、これらの知見は産後うつ病の病態理解や診療技術の向上に寄与することが期待される。
【概要】
産後うつ病では、妊娠から出産に至る生活習慣、環境、心身状態の変化に関連した様々な代謝産物の変動が生じていることが想定されます。東北大学大学院医学系研究科の兪志前講師、富田博秋教授らのグループは、東北大学東北メディカル?メガバンク機構 (ToMMo)注5が実施している三世代コホート調査注6で得られた健常者および産後うつ症状を呈する母親の妊娠中後期、および産後の血漿中の代謝産物をガスクロマトグラフィー質量分析注7で網羅的に解析しました。
その結果、産後うつ症状を示す母親は、その兆候のない母親と比較して、妊娠中後期から産後1ヶ月時点までに血漿中の「クエン酸回路」に関連する代謝産物のプロファイルが異なっていました。さらに、機械学習を用いて、妊娠中後期における血漿中の代謝産物のプロファイルから産後うつ症状の予測を行ったところ、シトシン注8の減少およびエリトルロース注9の増加が産後うつ症状を予測するリスク因子として同定されました。
本研究結果成果より、妊娠中後期の代謝異常が産後うつ病の発症と関連する可能性が示唆されました。この知見は、妊産婦の個体差に応じた産後うつ病の予防やケアを行う個別化予防に繋がることが期待されます。また今後、各々の代謝物と精神状態との関係性を明らかにすることで、産後うつ病の病態の理解に繋げられる可能性があります。
本研究成果は、2022年11月24日付でiScienceのオンライン版で公開されました。
図1.妊娠中後期と産後1ヶ月の血漿メタボロームと産後うつ症状との関連の検証
抑うつ兆候のない対照となる妊産婦、および産後うつ症状を呈する妊産婦の妊娠中後期および産後1ヶ月の血漿メタボロームをGC-MS (ガスクロマトグラフィー質量分析) で解析しました。対照となる妊産婦に比べ、産後うつ症状を呈する妊産婦において、妊娠中から産後にかけて異なるパターンを呈するメタボロームの変動を特定しました。さらに、機械学習を用いて血漿中の代謝物を用いた産後うつ症状の予測を行い、予測への貢献が大きい血漿中の代謝物を特定しました。
【用語解説】
注1.血漿メタボローム:血液から血球成分を取り除いた液性成分に含む代謝産物の総称。
注2.産後うつ:産後1ヶ月前後を中心に現れるうつ様状態。
注3.クエン酸経路:エネルギー産生に中心的な役割を果す生化学的代謝経路。アミノ酸、尿素、糖など多くの代謝経路に関与している。
注4.機械学習:データをコンピュータで一定のアルゴリズム(形式)に従って学習させ、ものごとを判断?分別?予測する方法。
注5.東北メディカル?メガバンク機構(ToMMo):東日本大震災からの復興事業として平成24年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化予防?医療の実現を目指している。東日本大震災被災地を中心とした合計 15 万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を実施し、収集した試料?情報を整備している。
注6.コホート調査:一定の集団を対象に長期に渡って生活習慣と疾患の発症について調査することで、生活習慣または特定の事象の暴露と疾患発症リスクとの関係を解析するための分析疫学の一手法。
注7.ガスクロマトグラフィー質量分析:主に有機化合物の定性?定量を行う分析装置。
注8.シトシン:DNAやRNAといった核酸を構成する塩基分子のひとつ。
注9.エリトルロース:ブドウ糖の分解産物で、4つの炭素原子を含む単糖の一種。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
講師 兪 志前(ゆ しぜん)
電話番号:022-717-7261
Eメール:yu_zhiqian*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科広報室
電話番号:022-717-8032
Eメール:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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