2022年 | プレスリリース?研究成果
豊富な元素からなる硫化スズで 高効率太陽電池を開発できる可能性を発見 ~効率向上のカギを握る大きく曲がるバンド構造を実測~
【本学研究者情報】
〇 多元物質科学研究所 助教 鈴木一誓
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 硫化スズ太陽電池は安価で安全なエネルギー源として期待される。
- 従来の硫化スズ太陽電池では、p n接合の界面注1において硫化スズのバンド注2がほとんど曲がらず、開放電圧注3が低くなることが変換効率注4向上の壁となっていた。
- 硫化スズの大きく曲がるバンド構造を初めて実測し、硫化スズが太陽電池材料として高いポテンシャルを有することを示した。
【概要】
硫化スズは地球上に豊富にある元素の化合物で太陽電池材料として期待されています。硫化スズ太陽電池はこれまで20年間研究されてきました。高効率な太陽電池を実現するためには、高い開放電圧を得ることが必要となります。しかし、硫化スズ太陽電池の開放電圧は5%以下で、実用化されている太陽電池の半分以下と低いことが問題となっていました。これは、硫化スズ界面において、硫化スズのバンドがほとんど曲がらないことが原因です。
多元物質科学研究所の鈴木一誓助教らのグループは、硫化スズ単結晶に酸化モリブデンを堆積した界面の電子状態を光電子分光法注5によって解析し、バンドが大きく曲がることを初めて実測しました。このことは、硫化スズを用いて太陽電池に適した界面が形成できることを実証したものであり、硫化スズが太陽電池材料として高いポテンシャルを有することを示しています。
本研究成果は、2022年11月30日(米国東部時間)公開のThe Journal of Physical Chemistry C誌に掲載されました。
図1.
(a)本研究にて解析したSnS単結晶/MoO3薄膜の界面の模式図。
(b)実際に作製したサンプルを光電子分光測定している様子。ステンレス台にいくつかの単結晶が固定されている。
(c)本研究で実測された大きく曲がった硫化スズのバンドの模式図。
【用語解説】
注1. 界面
一般的に太陽電池はp型半導体とn型半導体の接合(pn接合)を用いることで発電が可能となる。異なる層が接する領域を界面と呼び、この領域にどの程度欠陥が存在するかなどの界面状態は、太陽電池の発電性能に大きな影響を与える。
注2.バンド(バンドの曲がり)
太陽電池では光吸収体のフェルミ準位のシフトにより電圧が生まれる。したがって、高い開放電圧を得るためには光吸収体においてフェルミ準位が自由にシフトできることが必要である。フェルミ準位のシフトは、界面におけるバンドの曲がり(屈曲)として観察される(図(a))。しかし、従来のSnS太陽電池の界面ではこのバンドの曲がりがほとんどないことが知られており、フェルミ準位が自由にシフトできないことが示唆されていた(図(b))。このようなフェルミ準位のシフトが阻害されるメカニズムはフェルミ準位ピニングと呼ばれ、従来のSnS太陽電池の開放電圧が低かった原因と推察される。
*図(a)、図(b)については、下記詳細(プレスリリース本文)をご覧ください
注3.開放電圧
回路を接続しない状態で電圧のこと。性能のよい太陽電池には高い開放電圧の実現が必須である。太陽電池の性能に直結する短絡光電流と並んで、太陽電池の性能を表す重要な因子の一つ。
注4.変換効率
太陽電池に照射されたエネルギーを電気エネルギーに変換できる割合を示したもの。市販されている住宅用?産業用ソーラーパネルの変換効率は、15~20%程度である。
注5.光電子分光分析
測定対象の材料に光をあてると、光電効果によって光電子が放出する。この光電子のエネルギーを測定することで材料の状態を観察することができる。本研究では、材料の表面や界面を分析するため、材料の表面から数nmの深さまでの領域の状態を観察できるアルミニウムのKα線を励起光に用いている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 鈴木一誓(すずき いっせい)
電話 022-217-5215
E-mail issei.suzuki*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
広報情報室
電話 022-217-5198
E-mail press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています