2022年 | プレスリリース?研究成果
細胞の情報伝達のオンオフを切り替える脂質分子 ―細胞内取り込み因子アレスチンが受容体に結合する第二の機構の発見―
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野 教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 細胞の情報伝達において、入力がオンになった後に一過的にオフになり再びオンになる過程に必要な脂質分子(PIP2)(注1)を同定
- PIP2は情報制御因子のアレスチン(注2)に結合し、アレスチンが細胞表面の受容体(GPCR)(注3)を細胞内に取り込む過程を促進
- 効果の持続時間が長い薬の開発や、副作用を低減した薬の開発に貢献
【概要】
細胞は外来との情報(シグナル)のやりとりの大半をGタンパク質共役型受容体(GPCR)(注3)と呼ばれる膜表面のセンサーを介して行っています。GPCRに細胞外からシグナル伝達分子(リガンド)(注4)が結合すると、GPCRは細胞内に取り込まれて内在化(注5)し、しばらくの間応答性が低下した状態(脱感作)を保ち、その後細胞表面へと戻ってきます(図1)。細胞は内在化機構を備えることで、リガンドの到来をオフ→オン→オフというパルス情報としてデジタル処理することができます。そのための適切な情報処理には、リガンドと結合したGPCRが一時的に細胞内に取り込まれて不応答となる必要があります。しかし、この過程で働くアレスチンがGPCRに結合する分子機構については不明な点が多く残されていました。
東北大学大学院薬学研究科の井上飛鳥教授、スタンフォード大学のBrian Kobilka教授らの国際共同研究グループは、機能性膜脂質であるホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)(注1)に着目し、この脂質分子がアレスチンとGPCRの結合を促進し、アレスチンを構造変化させて活性型へと誘導することで、GPCRを細胞内に取り込むことができることを見出しました。薬の多くはGPCRに作用して薬効を発揮することから、本研究の知見は持続的な効果を示す薬や副作用を低減した薬の開発に貢献するものです。
本研究成果は、2022年11月10日(現地時間)に「Cell」誌電子版、11月23日に同冊子版に掲載されました。
図1 アレスチンによるGPCRの内在化とリサイクルの速度による分類 GPCRにリガンドが結合すると三量体タンパク質を介したシグナル伝達が生じる。続いて、GPCRリン酸化酵素によって細胞内部分がリン酸化(P)を受け、アレスチンと結合する。GPCRとアレスチンは内在化し、エンドソームに到達する。その後、GPCRは膜表面へとリサイクルされるが、この速度が早い種類(クラスAタイプ)と遅い種類(クラスBタイプ)に分類される。クラスAタイプはリン酸化レベルが低く、エンドソームで直ちにアレスチンが解離することが知られる。
【用語解説】
(注1) ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2、ピーアイピーツー)
生体膜を構成するリン脂質の1種。極性基の末端にリン酸基を2つ結合し、大きな負電荷を有する。細胞表面の生体膜(形質膜)に多く存在することが知られる。構造の類似した脂質を含めてホスホイノシタイド(ホスホイノシチド)と総称される。
(注2) アレスチン(βアレスチン、ベータアレスチン)
細胞質に存在するGPCRのシグナル伝達の機能の調節因子。リン酸化を受けたGPCRと強く結合し、クラスリンなどの内在化因子と結合することで、GPCRを細胞内に取り込む。また、シグナル伝達因子の足場タンパク質としてシグナルの起点としても機能する。アレスチンには全身性に発現する2つのサブタイプ(β-arrestin1, β-arrestin2)が存在する。
(注3) Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
細胞外のリガンドに応答して三量体Gタンパク質を介して細胞内へとシグナル伝達を行うセンサータンパク質。構造的に7回細胞膜を貫通する特徴を持つ。ヒトには約800種類のGPCRが存在し、それぞれが特定のホルモン分子や代謝物を認識する。薬の標的としても重要であり、既存薬約3割がGPCRを介して薬効を発揮することが知られる。
(注4) リガンド
タンパク質の結合分子。今回の研究ではGPCRを活性化する分子を指す。
(注5) 内在化
細胞表面に存在するタンパク質(GPCRなど)が細胞内に取り込まれる現象。
詳細(プレスリリース本文)
※一部情報を追記しました。(11月14日修正)
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 井上 飛鳥(いのうえ あすか)
電話 022-795-6861
E-mail iaska*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科?薬学部 総務係
電話 022-795-6801
E-mail ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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