2022年 | プレスリリース?研究成果
世界で初めてスパコンでエンジンの摺動部摩耗と焼付き発生部位のシミュレーション予測に成功 -次世代の高性能エンジン開発への応用に期待-
【本学研究者情報】
〇流体科学研究所 教授 石本淳
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- スーパーコンピューターでエンジンピストンピン摺動部における摩耗?焼付き発生部位に関するシミュレーション予測に世界で初めて成功した。
- ピストンピンの弓なり状の変形が、コンロッドエッジにおける機械接触?焼付きの原因であることを特定した。
- ピストンピンとコンロッド双方の弾性変形ならびに非定常流路変化を伴う薄膜キャビテーション注1潤滑を考慮した、3次元混相流体-構造体連成解析手法注2の開発に成功した。
【概要】
レシプロエンジン(ピストンエンジン)は燃焼による動力を往復運動として取り出し、回転運動に変換することで駆動を行う、自動車や航空機、発電機など多数の用途に使用される動力機械です。燃焼による大きな動力を、駆動系に効率よく伝達することが重要ですが、そのような過酷な稼働条件下では部品に対し高耐久性が求められます。実際に、レシプロエンジンの故障原因として最も多くあげられるのが部品の摩耗?焼付きであり、これは潤滑油の油膜が途切れることにより金属部品が接触し、傷が付いたり固着する現象で,動力機械全体の性能を左右します。焼付きが生じると、多くの場合エンジンの始動が不可能になり、エンジン自体を交換する必要があるなど、被害が極めて大きくなる可能性が高い故障となります。特に、ピストンピン-コンロッド間の潤滑は、内燃機関において最も厳しい条件下での流体潤滑が求められます。しかしながら、流体潤滑における摩耗?焼付き発生部位の検証には理論や計算による予測は不可能であると考えられ、長期間にわたる負荷試験を行わざるをえませんでした。
東北大学流体科学研究所の石本淳 教授と本田技研工業株式会社の研究グループは、エンジンピストンピン-コンロッド小端間の相変化を伴う狭あい潤滑油液膜流れに着目し、構造体の弾性変形と流路変化を考慮した混相流体-構造体連成解析手法を新たに開発し、厳しい負荷条件下におけるトライボロジー注3特性に関するシミュレーション予測法を開発しました(図1)。その結果、摺動部における摩耗?焼付き発生部位のシミュレーション予測に成功するとともに、構成部品の特異な変形挙動が摩耗?焼付きの発生要因であることを発見しました。
本研究手法は自動車用エンジンのみならず流体潤滑を用いた全ての摺動部品要素に適用可能であり、輸送機械?産業機械の損傷予測や構成要素の安全性指針策定に貢献します。本研究により,摩耗?耐久性試験時間や製造コストが削減され,機械接触を伴う全ての構成要素の最適設計が可能になります。
本研究成果は、2022年8月29日付で米国機械学会の学術誌"ASME Journal of Tribology" On-line版に掲載されました。
図1 エンジンピストンピン摺動部における摩耗?焼付き発生部位に関するシミュレーション予測に成功(ピストンピンとコンロッド双方の弾性変形ならびに非定常流路変化を伴う薄膜キャビテーション潤滑を考慮した、3次元多相流体-構造体連成計算結果)
【用語解説】
注1. キャビテーション:
ある温度における液体流れ場中の圧力が飽和蒸気圧以下となった条件で短時間に気泡が生成、また液体圧力が回復すると気泡消滅が生じる物理現象
注2. 連成解析:
2つ以上の物理現象が相互に及ぼす影響を考慮した解析をすることを指します。本研究の場合、主に弾性力学?流体力学?熱力学の3つの物理化学現象の相互作用を考慮した解析となっています。
注3. トライボロジー:
潤滑や摩擦?摩耗?焼付きなど相対運動しながら互いに影響し合う2つの表面の間に起こるすべての現象を対象とする科学と技術を指します。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学流体科学研究所
附属未到エネルギー研究センター長
教授 石本 淳
電話 022-217-5271
E-mail ishimoto*alba.ifs.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学流体科学研究所
広報戦略室
電話 022-217-5873
E-mail ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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