2022年 | プレスリリース?研究成果
ALS の発症に関与する SOD1 が毒性を発現するしくみ 硫黄原子間の結合?開裂で抗酸化?酸化作用がスイッチする
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 生物構造化学分野 教授 中林孝和
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)との関連が指摘されているタンパク質 SOD1の凝集物前駆体(オリゴマー)の酸化作用を明らかにしました。
- SOD1 の酸化作用は、分子内にある硫黄原子間の結合の開裂によって生じることを示しました。
- ALS の発症機序の解明や治療法の開発に繋がることが期待されます。
【概要】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性神経変性疾患の一つであり、発症原因 が不明であることから治療法の開発が進んでいません。ALS の病変部位にタンパク質 SOD1 の凝集物が見いだされたことから、SOD1 の毒性と ALS の発症との関係について長く研究されてきました。近年では凝集物ではなく、凝集物の前駆体である SOD1 が数分子集まったオリゴマーが毒性を持つことが報告されましたが、毒性発現の詳細なメカニズムは不明でした。
東北大学大学院薬学研究科の中林孝和教授、田原進也助教、山﨑公介氏(大学院修士課程在学中)らは、 ALS の発症に関与する SOD1 の毒性獲得の新たな分子機構を明らかにしました。
SOD1 は本来抗酸化作用を示すのですが、本研究では分子内にある硫黄原子間の結合(ジスルフィド結合)が切れるのみで、抗酸化作用から酸化作用(注 1)に変化することを示すことができました。またジスルフィド結合の切断によってオリゴマーが生成すること、さらに凝集物よりオリゴマーの方が酸化作用が強いことを示しました。本研究によって、オリゴマーの毒性の原因の一つが酸化作用であり、分子内のジスルフィド結合の切断が原因で生じることを明らかにしました。
本研究成果は 2022 年 7 月 11 日付で Scientific Reports 誌に掲載されました。
図 1. DCF 蛍光法(注 2)による SOD1 の酸化作用の評価。(A)野生型 SOD1 および ALS 発症に関連付けられている変異体(A4V,H43T,G93A 変異体)の熱変性前後の酸化作用の強さ。C6S/C111S 変異体(A4V/C6S/C111S,H43R/C6S/C111S,G93A/C6S/C111S)については、熱変性前後および還元剤存在化で熱変性後の酸化作用。(B)SOD1 変異体を 4℃の低温下還元前後の酸化作用。
【用語解説】
(注 1)酸化作用
SOD1 は熱によって変性すると、酵素活性中心である Cu イオン付近の構造が変化し、元々の抗酸化活性ではなく、過酸化水素から強い酸化力を持つヒドロキシラジカルを生成するフェントン反応様の酸化活性を示します。本研究ではこのような活性を SOD1 が獲得した酸化作用と定義しました。
(注 2)DCF 蛍光法
ジクロロフルオレセイン(DCF)分子の蛍光強度を用いて活性酸素種の発生量を評価する方法。DCF の蛍光強度が高いほど、測定分子の酸化作用が高いことになる。
問い合わせ先
東北大学大学院 薬学研究科 生物構造化学分野
中林 孝和 TEL : 020-795-6855
E-mail : takakazu.nakabayashi.e7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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