2022年 | プレスリリース?研究成果
東北大発の磁性材料"センダスト合金"、 発見から90 年目で再び脚光 ~超高感度磁気センサへの応用に期待~
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科 応用物理学専攻
教授 大兼幹彦
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- センダスト(FeAlSi)合金の軟磁気特性注1の発現機構を解明し、広い組成範囲で優れた軟磁気特性が実現可能であることを発見。
- 世界で初めて、センダスト合金のバルク注2材料と同等以上の優れた軟磁気特性を示す薄膜試料を作製することに成功。
- 開発したセンダスト薄膜は、脳磁計注3などに応用が可能な超高感度スピントロニクス磁気センサ注4、5の感度を飛躍的に向上させる新材料となることが期待される。
【概要】
センダスト合金は、1932年に東北大学金属材料研究所の増本量名誉教授、山本達治氏により発見され、優れた軟磁磁気特性を示すことから、ハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッド注6などに応用されてきました。仙台で生み出され、粉(ダスト)にしやすいことからこの名称がつけられました。ところが、軟磁気特性を示す化学組成は組成図上の一点のみであり、その作製が非常に困難であることが従来の常識でした。
東北大学大学院工学研究科博士後期課程2年の赤松 昇馬氏と大兼 幹彦教授らは、センダストの軟磁気特性発現機構の謎を解明し、原子規則度の制御によって、広い組成範囲で軟磁気特性を実現しました。さらに、優れた軟磁気特性を示す薄膜試料の作製に成功し、最先端スピントロニクス材料として応用可能であることを示しました。このセンダスト薄膜は、脳磁場などの微弱な生体磁場を検出可能な超高感度スピントロニクス磁気センサの感度を飛躍的に向上させる新材料となることが期待されます。
本研究成果は、2022年6月15日(現地時間)、米国の科学誌Applied Physics Lettersに掲載されました。
図1. センダスト薄膜の軟磁気特性を得るためのガイドライン
原子規則度とAl濃度のバランスによって、センダストの軟磁気特性が得られることが明らかとなった。原子規則度は熱処理によって制御可能であることから、図2に示す通り、センダスト合金の軟磁気特性発現領域を大幅に拡大できる。
【用語解説】
注1. 軟磁気特性:外部の磁場に反応して比較的簡単に磁界の向きが反転する性質を軟磁気特性と呼ぶ。
注2. バルク:薄膜状態でない物体や流体をバルクと呼び、一般的にある物質の特性といえばバルクの性質を指す。反対に薄膜状態の物質は、界面の影響を受けることから、その特性は一般にはバルクよりも劣ることが多い。
注3. 脳磁計:脳の神経細胞を流れる微弱な電流から発生する磁場(脳磁図)を測定する装置。電気で測定する脳波と比べて高空間分解能(mm単位)かつ高時間分解能(ms単位)で脳の活動部位を推定することが可能である。
注4. スピントロニクス:電気工学(エレクトロニクス)と磁気工学(マグネトロニクス)が融合した新しい工学領域。FeやCoなどを始めとした強磁性材料の薄膜を用い、その電荷とスピンの両方の自由度を自在に制御することで画期的なデバイスを実現する。東北大学が世界的にリードする分野の一つであり、大野英男総長や、本研究グループの安藤康夫教授らが中心となって、2019年4月に「東北大学先端スピントロニクス研究開発センター」が設立され、世界トップレベルの研究が進められている。
注5. スピントロニクス磁気センサ(通称:TMRセンサ):極薄の絶縁体を二層の強磁性体で挟んだ構造の素子において、それぞれの磁化の向きで素子抵抗が変化するトンネル磁気抵抗(TMR)効果を用いた磁気センサ。これを用いた脳磁計は、従来の超伝導量子干渉素子(Superconducting quantum interference device: SQUID)を用いたものと比較して、高空間分解能、高ノイズ耐性、低コスト、ウェアラブル性といった様々なメリットがあり、次世代型の脳磁計として期待されている。
問い合わせ先
東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻
博士後期課程2年 赤松 昇馬(あかまつ しょうま)
電話 022-795-7949
E-mail: shoma.akamatsu.p3*dc.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
教授 大兼 幹彦(おおがね みきひこ)
電話 022-795-7946
E-mail: mikihiko.ogane.e4*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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東北大学工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
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