2022年 | プレスリリース?研究成果
謎の多い器官で新しく分かった特徴 交連下器官の細胞は神経幹細胞の特徴を持つ
【本学研究者情報】
〇大学院医工学研究科 特任准教授 稲田仁
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 未だ機能が明らかになっていない脳の交連下器官注1の細胞は、成体の脳でも神経上皮細胞注2の特徴を保っていることが明らかになった。
- 交連下器官の細胞には神経幹細胞注3に特徴的な複数のタンパク質が存在していた。
- 交連下器官は脳の中で新しい細胞を生み出す領域である可能性がある。
【概要】
交連下器官は特徴的な構造を持っており、様々なタンパク質を脳脊髄液中に分泌する分泌器官でもあることが報告されています。交連下器官は、ヤツメウナギなどの原始的な魚からヒトを含む哺乳類に至るまで、全ての脊椎動物に存在しており、ヒトでは4歳以降になると退縮するとされていますが、その機能には不明な点が未だ多い器官です。東北大学大学院医工学研究科健康維持増進医工学分野(兼医学系研究科発生発達神経科学分野)の稲田仁特任准教授らの研究グループは、成体マウスの脳において、交連下器官の細胞が、神経系の様々な細胞を生み出す幹細胞である神経幹細胞に似た特徴を持つことを報告しました。組織化学的な解析の結果、交連下器官の細胞は、Pax6やSox2といった神経幹細胞のマーカータンパク質やPCNAといった細胞分裂マーカータンパク質を発現していることが明らかになりました。その一方で、交連下器官には活発に分裂している細胞は存在しなかったことから、これらの神経幹細胞の特徴を持つ細胞は、細胞分裂について休眠状態にあることが示唆されました。この報告により、交連器官の新しい機能の解明につながると期待されます。
本研究成果は、2022年5月31日に国際科学誌Journal of Anatomyに掲載されました。
図1. 交連下器官の細胞は、神経幹細胞に特徴的なタンパク質を発現している。SCO-spondinは交連下器官を特徴付けるタンパク質。
【用語解説】
注1. 交連下器官:大脳半球を連結する繊維の一つである後交連の下にある脳室周囲器官。分泌細胞に特徴的な構造である、細胞内顆粒を持つ。歴史的に1900年代から報告があるが、その機能については未だ不明な点が多い。
注2. 神経上皮細胞:脳の初期発生の過程で神経細胞と脳構造を生み出す細胞。
注3. 神経幹細胞:神経系の様々な細胞を生み出す幹細胞。神経細胞や、アストロサイト、オリゴ
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医工学研究科
特任准教授 稲田仁(いなだ ひとし)
Eメール:hinada*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(取材に関すること)
東北大学大学院医工学研究科
電話番号:022-795-5826
Eメール:bme-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)