2022年 | プレスリリース?研究成果
低圧超臨界相の活用で 従来以上に高品質な窒化ガリウム結晶を作製 -実験炉で反りがなく高純度な窒化ガリウム結晶成長を実証
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 教授 秩父重英
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 低圧酸性アモノサーマル法*1において、高品質なシード(種結晶)を用いることにより結晶性がよく、高純度な窒化ガリウム*2結晶の成長を確認
- 高品質な窒化ガリウム基板の供給により窒化ガリウムデバイスの研究促進に貢献
【概要】
近年、世界中で環境問題への関心が高まり、産業界において省エネルギー化が進められています。そのためには各分野で用いられている半導体デバイスの高性能化が必要不可欠です。例えば電力制御を担う高周波パワートランジスタ*3など自立した窒化ガリウム(GaN)基板上に作製される電子デバイス(GaN-on-GaNデバイス)はエネルギー消費を抑えることでCO2の削減につながると期待されています。しかし現在市販されているGaN単結晶基板では品質に課題がありGaN-on-GaNデバイスのポテンシャルを十分に引き出し切れていないのが現状です。
東北大学多元物質科学研究所の秩父重英教授らは、株式会社日本製鋼所、三菱ケミカル株式会社との共同研究において、GaN基板の量産法として開発した低圧酸性アモノサーマル(LPAAT)法の実用化に向けた検討を進め、使用するシード基板の品質が成長後の結晶の品質に与える影響を明らかにしました。特に、高品質なシードを用いれば成長させた結晶の結晶性も良くなり、室温のフォトルミネッセンス*4スペクトルも自由励起子*5再結合によるバンド端発光が支配的になるほど高純度になることを確認しました。
本成果は、科学雑誌Applied Physics Expressにて2022年5月13日にオンライン公開されました。
本研究の一部は、国立研究開発法人新エネルギー?産業技術総合開発機構(NEDO)のプログラム「低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト(JPNP10022)」、「戦略的省エネルギー技術革新プログラム(JPNP12004)」、および文部科学省「人?環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック?アライアンス」の助成を受けています。
【参考画像1】 LPAAT 法により、高品質なSCAATTMシード上に成長させたGaN単結晶の外観、結晶構造特性、およびフォトルミネッセンススペクトル。
【用語解説】
*1. 低圧酸性アモノサーマル(Low-pressure acidic ammonothermal; LPAAT)法
通常の温度?圧力では溶解しない溶質を、高温?高圧の超臨界流体中に溶解させ、炉内の温度勾配に応じた溶解度差を利用して種結晶上に溶質を再結晶させるソルボサーマル法の一種です。使用する溶媒に応じてハイドロサーマル(水熱)法やアモノサーマル(安熱)法などと呼ばれます。超臨界アンモニア中へのGaNの溶解を促進させる鉱化剤として、アルカリアミド(MNH2, M=Li, Na, K)などの塩基性鉱化剤、ないしはハロゲン化アンモニウム(NH4X, X=Cl, Br, I)などの酸性鉱化剤を用います。我々の研究グループでは酸性鉱化剤を用いる酸性アモノサーマル法の開発を行ってきました。高圧の超臨界流体アンモニアを用いた酸性アモノサーマル法(AAT)は既に実用化されていますが、高圧であるため超大型炉への適用は困難です。そこで本研究では、超大型炉に適用可能な低圧条件での酸性アモノサーマル法(LPAAT法)を開発しました。
*2. 窒化ガリウム(GaN)
ガリウムと窒素から成る化合物半導体。GaN、および窒化インジウム(InN)とGaNの混晶(InGaN)は青色発光ダイオードおよび青色レーザ等の発光デバイスの基幹材料として実用化されています。近年、半導体としての性能の限界を迎えつつある珪素の代替材料として、炭化珪素、GaN、ダイヤモンド等が注目されています。なかでも、GaNは広い禁制帯幅(3.4 eV)、高い絶縁破壊電界(3.3 MV cm-1)、速い飽和電子速度(2.5×107 cm s-1)などの物性を有するため、高出力かつ高周波で動作する電子デバイスへの応用が期待されています。
*3. 高周波パワートランジスタ
携帯電話の基地局、レーダー、通信衛星等における大容量?高速通信を実現するための電力変換?増幅器。GaNは、他の材料では難しい高出力(kWクラス)かつ高周波数(1 GHz ~ 100 GHz)の領域におけるデバイス応用が期待されています。
*4. フォトルミネッセンス
半導体が禁制帯幅よりも大きなエネルギーの光を照射された際に、半導体内に励起された電子正孔対が再結合する過程で光が放出される現象。フォトルミネッセンスにより放出される光のエネルギースペクトルには、半導体内のバンド間の直接または間接遷移や励起子遷移、ドナーやアクセプター準位などに関係する光学遷移の情報が反映されるため、半導体結晶の周期性や不純物に関する情報を間接的に得ることができます。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 秩父重英(ちちぶ しげふさ)
電話: 022-217-5363
E-mail:chichibu*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています