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色褪せない蛍光タンパク質 -細胞微細構造やウイルスの定量的観察を可能にする技術-

理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター細胞機能探索技術研究チームおよび光量子工学研究センター生命光学技術研究チームの宮脇敦史チームリーダー、平野雅彦研究員、安藤亮子研究員、杉山真由研究員、理研脳神経科学研究センター細胞機能探索技術研究チームの下薗哲研究員、黒川裕研究員、東北大学大学院生命科学研究科附属浅虫海洋生物学教育研究センターの竹田典代助教(研究特任)(研究当時、現日本学術振興会特別研究員)、北里大学大村智記念研究所の片山和彦教授、花王株式会社安全性科学研究所らの共同研究グループは、明るく極めて褪色[1]しにくい蛍光タンパク質「StayGold」を開発し、生細胞で細胞小器官の微細構造の動態を速く長く解析する定量的観察法を確立しました。また、StayGoldとVHH抗体[2]の融合タンパク質を作製し、固定感染細胞における新型コロナウイルスのスパイクタンパク質[3]の詳細な分布を明らかにしました。

本研究成果は、褪色による制限を取り払うことで、蛍光観察の時空間の幅を飛躍的に拡張し、定量性を求める創薬開発研究に貢献すると期待できます。

今回、共同研究グループは、「タマクラゲ[4]」の遺伝子発現解析データ[5]をもとに、野生型タマクラゲの緑色蛍光タンパク質を遺伝子クローニングし、明るく極めて褪色しにくい変異体StayGoldを創出しました。小胞体、ミトコンドリア、微小管などの細胞小器官をStayGoldで蛍光標識し、従来の蛍光タンパク質では褪色のために解析できなかった動的構造変化を明らかにしました。また、StayGoldを抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質VHH抗体[2]に連結することで、感染細胞内でウイルス粒子が成熟する経路を捉えることに成功しました。

本研究は、科学雑誌『Nature Biotechnology』オンライン版(4月25日付:日本時間4月26日)に掲載されました。

図1 タマクラゲの生活環
A、B:ムシロガイ上に生息するタマクラゲのポリプ群体。ポリプ世代はおよそ2mmの円柱を呈する。
C、D:浮遊するタマクラゲの雌。クラゲ世代は外径1~2mmの球体を呈する。
AとCは暗視野的に撮影した画像。Bは蛍光画像。Dは蛍光画像と微分干渉画像の重ね合わせ。

【用語解説】

[1] 褪色
発色団は、可視域にある光を吸収することで色を作る構造単位である。蛍光タンパク質は自ら発色団を形成する。褪色は発色団が分解することで起こり、その結果不可逆的に色が消失する。色の消失によって必然的に蛍光も消失する。

[2] VHH抗体、抗SARS-CoV-2スパイクVHH抗体
アルパカなどラクダ科の動物は、軽鎖のない重鎖のみから構成される抗体を産生する。重鎖抗体の可変領域はVHH(Variable domain of Heavy chain of Heavy chain)と呼ばれ、抗原を認識する最小のタンパク質断片として用いられる。北里大学の芳賀らの研究により、抗SARS-CoV-2スパイクVHH抗体を使って、SARS-CoV-2感染ハムスターの症状を軽減できることが示されている。

[3] スパイクタンパク質
コロナウイルスの表面の突起物を形成する構造タンパク質。ウイルスはスパイクタンパク質を使って、宿主細胞上の受容体に結合して侵入する。スパイクタンパク質はワクチン開発のターゲットとなっている。

[4] タマクラゲ
刺胞動物門、ヒドロ虫網、花クラゲ目に属する。クラゲ世代の個体は全体的に球状で外径は1~2mmのサイズ。研究室での飼育が可能で、生殖生物学の実験材料や理科教材として注目されている。

[5] 遺伝子発現解析データ
ここでは、特定の組織におけるメッセンジャーRNA(mRNA)の網羅的解析(トランスクリプトーム解析)によって得られたデータを指す。

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問い合わせ先

東北大学大学院 生命科学研究科広報室
TEL:022-217-6193
E-mail:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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