2022年 | プレスリリース?研究成果
藻類に窒素をより多く取り込ませる新しい機構を発見 -低窒素環境での食糧増産にも期待-
【本学研究者情報】
〇東北大学医学系研究科生物化学分野 教授 五十嵐和彦
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 窒素の取り込みを活性化する転写因子であるMYB1の働きが、窒素が豊富にある環境では抑制されてしまうメカニズムを解明。
- このメカニズムを応用し、窒素が豊富に存在する環境でも、窒素を取り込む遺伝子群の発現を高いまま維持する藻類の作出にも成功。
- 藻類バイオマス生産の低コスト化やさらなる食糧増産などへの貢献に期待。
【概要】
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の周柏峰大学院生、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の田中寛教授、今村壮輔特定教授(兼 日本電信電話株式会社(NTT) 宇宙環境エネルギー研究所 特別研究員)の研究グループは、東北大学大学院 医学系研究科の島弘季助手、五十嵐和彦教授と共同で、植物の成長に欠かせない窒素の取り込みを活性化する転写因子(用語1)であるMYB1(用語2)の機能が、窒素が充分に存在する環境では抑制されてしまうメカニズムを、植物の原型と言える藻類(用語3)を用いて解明した。
研究グループでは、全長のMYB1を持つ株と、MYB1の一部を欠損させた複数の株の比較対照によって、MYB1が自身の内部に持っている機能を抑制する部位を特定。また、機能抑制部位と結合するタンパク質の探索を行い、抑制のメカニズムを明らかにした。さらに、このメカニズムの応用によって、窒素が豊富に存在する環境であっても、窒素を取り込む遺伝子群の発現を高いまま維持する藻類の作出に成功した。
窒素は、藻類のみならず植物全般の成長を決定づける栄養素であるため、窒素を効率的に多く取り込ませることは、植物の成長促進および作物生産において有効な手段であると考えられている。
今回解明された窒素取り込み活性化のメカニズムを藻類や作物などに応用することで、藻類バイオマス生産の低コスト化や、低窒素環境での食糧増産などへの貢献が期待される。
本成果は3月11日、スイスの科学雑誌「フロンティアズ イン プラント サイエンス(Frontiers in Plant Science)」オンライン版に掲載された。
図1.転写因子MYB1による、窒素欠乏条件における遺伝子発現調整
利用可能な窒素源が欠乏すると、MYB1が窒素の吸収を促す窒素栄養遺伝子群の発現を誘導する。しかし、窒素が充足している条件で、MYB1による遺伝子発現の誘導が抑制されるメカニズムは不明であった。
【用語解説】
(1)転写因子:転写調節因子。遺伝子の転写を制御するタンパク質群で、DNAがもつ遺伝情報をRNAへと写し取る(転写)反応を調節する働きを持つ。具体的には、DNAの配列を鋳型としてメッセンジャーRNAを合成する転写酵素である「RNAポリメラーゼ」を転写開始点に配置する役割を担う。現在、2000種以上が確認されている。
(2)MYB1:哺乳類、植物、昆虫、真菌などに広く存在するMYB型と呼ばれる転写因子(用語1)の一つ。シゾン(用語4)において、窒素欠乏時に窒素の取り込みを活性化する転写因子として2009年に発見された。
(3)藻類:酸素発生型光合成を行う生物のうち、地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称。緑藻類や紅藻類などがある。
(4)シゾン:学名はCyanidioschyzon merolae(通称シゾン)。イタリアの温泉で見つかった単細胞性の紅藻(スサビノリ、テングサの仲間)。真核生物として初めて100%の核ゲノムが決定されるなど、モデル藻類、モデル光合成真核生物として用いられている。
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