2022年 | プレスリリース?研究成果
ファンデルワールス力による "つよく"?"しなやか"な新しい結合 -強磁性トンネル接合素子の構成材料として グラフェン二次元物質/規則合金の異種結晶界面に期待-
【本学研究者情報】
〇国際集積エレクトロニクス研究開発センター 研究開発部門
准教授 永沼博
東北大学研究者紹介
【発表のポイント】
- ファンデルワールス力により、異なる結晶界面を"つよく"?"しなやか"に結合できることを発見
- グラフェン/FePd規則合金の異なる結晶界面の原子位置を理論と実験により正確に決定
- グラフェン/FePd規則合金の異なる結晶界面に垂直磁気異方性が誘起されることを発見
- 超高密度(X nm世代)MRAMの記録層への応用に期待
【概要】
情報機器でのエネルギー消費増大問題を解決するために、計算機用の高性能な不揮発性磁気メモリ(MRAM)*1の開発が求められています。東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターの永沼博准教授をリーダーとして、東北大学電気通信研究所、高エネルギー加速器研究機構、神戸大学、東京工業大学、早稲田大学、パリ-サクレー大学、フランス国立研究センターの国内6機関?国外2機関は、それぞれが得意とする専門分野で学際的に協働することにより、六方晶系の二次元物質*2(グラフェン)と正方晶系の規則合金*3(L10-FePd)の結晶系の異なる界面(異種結晶界面)を、ファンデルワールス力*4により"しなやか"に結合させ、かつ界面電子密度の増加により"つよい"混成軌道を誘起させることに成功しました。また、深さ分解X線磁気円二色性(XMCD) *5装置を用いて界面付近の磁気状態を調べ、界面垂直磁気異方性*6が出現していることを明らかにしました。さらに、直接観察実験と理論計算の両方からグラフェン/L10-FePdの異種結晶界面の原子位置を正確に決定することに成功しました。本研究により、界面磁気異方性とL10-FePdのもつ高い結晶磁気異方性の両方を利用する道筋が示され、X nm世代*7のMRAM用の微小な強磁性トンネル接合(MTJ)素子*8への利用が期待されます。
本研究成果は、米国化学学会発行の科学誌 ACS Nanoの2022年2月 28日(米国東部標準時EST)にオンライン掲載されました。
図1 (a)走査型透過電子顕微鏡像(BF、ABFおよびHAADF-STEM像)を用いてグラフェン/FePdの軽元素であるカーボンと重い元素であるFeとPdを同時に観察した。(b)第一原理計算から最もエネルギー的に安定な原子位置をもとにしてSTEM像をシミュレーターにより再現した。(c) 第一原理計算から算出されたFePdとグラフェンのカーボンとの原子位置関係の概念図
【用語解説】
*1 不揮発性磁気メモリ(MRAM)
データの保存に不揮発性である磁化状態を利用しており、電荷状態でデータを保存するDRAMおよびSRAMなどの揮発性メモリの代替により、消費電力を低減することができることから次世代メモリとして注目されている。DRAMおよびSRAMはメモリセル(データ読み書きの最小単位)に電荷を蓄積することでデータを記録しており、蓄積電荷が減少するため定期的に電荷を補充する必要がある。これは不揮発性磁気メモリのMRAMとは記録原理が異なることを意味する。MRAMはメモリセルに、2つの磁性体層の間に絶縁体層を挟み込んだ*8で説明する強磁性磁気トンネル接合(MTJ)という構造をもつ素子を用いる。磁性体の磁化方向(N極とS極)が2層ともそろっている状態が「0」、不ぞろいな状態が「1」をあらわす。
*2 二次元物質 (材料)
二次元の面内方向の結合が強く、面直方向にはファンデルワールス力による弱い結合により貼り合わされている物質のこと。二次元材料としてはグラファイトの1層だけ剥がしたグラフェンに関わる研究が多く行われてきたが、近年、h-BN, WS2など多くの二次元物質の研究が展開されている。
*3 規則合金、結晶磁気異方性
規則合金とは構成する複数の金属原子の配列が規則的な材料である。例えばFePdはFe層とPd層が層状構造となっている。この構造をL10規則構造という。また、層状方向に対して強い結晶磁気異方性を有するため、微小サイズとなっても熱擾乱が起こりにくい特徴がある。
*4 ファンデルワールス力
原子間に働く分子間力のこと。二次元物質と金属材料の間では、原子位置関係?結晶対称性などによりPhysisorptionタイプとChemisorptionタイプの2種類の結合が生じるとされている。Physisorptionタイプの吸着のときの原子間力はChemisorptionタイプの吸着のときの原子間力に比べて弱く、従って層間距離が長くなることがわかってきた。
*5 深さ分解X線磁気円二色性(XMCD)
X線磁気円二色性(X-ray Magnetic Circular Dichroism: XMCD)とはX線の吸収分光法のひとつである。磁性体の試料に円偏光させたX線を照射したときに、吸収スペクトルが試料の磁化方向と円偏光の方向に依存して異なる現象を用いている。XMCDを応用した軟X線領域の深さ分解XMCD法は、磁性薄膜の磁気状態の深さ方向の分布を、ナノメートルを超える分解能にて元素選択的に観察することができる。
*6 界面垂直磁気異方性
異種材料などが界面を形成した場合、その界面において磁気異方性が垂直方向に形成される。界面磁気異方性の磁気異方性の発生メカニズムは結晶磁気異方性と似ている場合(軌道の重なりなど)もあるが、異種界面に生じる磁気異方性を結晶磁気異方性と分けて、界面磁気異方性として説明することが多い。
*7 1X nm世代、X nm世代
*8で説明する強磁性トンネル接合(MTJ)素子の接合直径のことである。この接合直径を小さくすることで不揮発性磁気メモリ(MRAM)の集積度を高めることができる。現在は1X nm世代の研究開発が盛んに行われており、X nm世代の基礎研究が次々に報告されている。X nm世代では形状磁気異方性の利用、界面数を増やすなどが提案されている。
*8 強磁性トンネル接合(MTJ)素子
強磁性/トンネル障壁層/強磁性の3層が基本構造で、1つの強磁性層を記録層、もう1つの強磁性層を固定層として磁化状態を記録する不揮発性磁気メモリへ応用されている。現在のMTJ素子のトンネル障壁層にはMgO材料が用いられている。本研究ではグラフェンに代替することを目的として研究が行われた。(磁化方向の書き換えは*1を、読み出しは*9を参照のこと)
*9 トンネル磁気抵抗(TMR)変化率
強磁性トンネル接合(MTJ)素子の2つの強磁性層の磁化が平行のときスピン偏極電子の透過率は高く、反平行のとき透過率は低くなる効果である。磁化の相対角度に応じてMTJ素子の抵抗が変化することから、不揮発性磁気メモリ(MRAM)の読み出しの原理となっている。一般に、磁化の平行?反平行時の電気抵抗を用いてTMR変化率を算出し、TMR変化率が高いとデジタル信号における"0"と"1"の判別が明瞭となる。また磁化反転効率が高くなることからMRAMにおいて重要なパラメーターとなっている。理論計算によるとグラフェンは1,000%のTMR変化率が予想されている。
問い合わせ先
◆研究内容に関して
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター
研究開発部門 准教授 永沼博
TEL:022-796-3419
E-mail:naganuma*cies.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
◆その他の事項について
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター
支援室長 髙橋嘉典
TEL:022-796-3410
FAX:022-796-3432
E-mail:support-office*cies.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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