2022年 | プレスリリース?研究成果
酸化されにくく再利用可能な超分子接着剤を開発 ~水の力により水素結合ネットワークを形成~
【本学研究者情報】
〇工学研究科 応用化学専攻 助教 朱 慧娥
分野ウェブサイト
【発表のポイント】
- ムール貝にみられる接着タンパク質を模倣し、優れた抗酸化性を有する超分子注1接着剤を開発した。
- 少量の水を添加することにより、様々な基板に対し低分子でありながら高分子に匹敵する接着力を示した。
- 水素結合注2は可逆的に働くため、繰り返し利用することが可能である。
【概要】
自在に接着および剥離ができ、再利用可能な"スマート接着剤"の開発が注目を集めています。その材料の一つに、ムール貝などが荒波に流されないよう岩に強固に張りつくために分泌するカテコール注3があります。しかしカテコール由来の接着剤は、様々な異種材料間の接着に有利である一方、酸化されやすく、しかも不可逆的であるため、接着強度の低下や再利用が困難などの課題がありました。今回、東北大学大学院工学研究科の朱慧娥(しゅ けいが)助教、三ツ石方也(みついし まさや)教授と山形大学大学院理工学研究科の宮瑾(ぐん じん)准教授らは、疎水性の環状シロキサン注4にカテコールとカルボキシ基を同時に導入することで、優れた抗酸化性が期待される超分子を開発し、高接着かつ再利用可能性を有する"スマート接着剤"の開発に成功しました。バイオミメティックな化学を基礎として、単純な分子構造設計と簡単な合成方法による超分子接着剤の開発は、将来、海洋接着剤や生体接着剤など様々な分野での応用が期待されます。
本研究成果は2022年2月15日(米国時間)に米国化学会発行の科学誌「ACS Applied Polymer Materials」でオンライン公開され、Supplementary Coverにも選出されました。
図1 今回開発した超分子接着剤の分子構造。1つの環状シロキサンに4つのカテコール基とカルボキシ基が導入されている。水添加により分子間で可逆的な水素結合のネットワークが形成される結果、抗酸化性や再利用可能といった接着特性があらわれる。
【用語解説】
注1 超分子
上述の水素結合を含む非共有結合性相互作用によって集合体を形成する分子。低分子であっても高分子のようなふるまいを示す超分子を超分子ポリマーと呼ぶ。
注2 水素結合
電気陰性度が大きな原子(陰性原子)に共有結合で結びついた水素原子が、近傍に位置した窒素、酸素、硫黄、フッ素、π電子系などの孤立電子対とつくる非共有結合性の引力的相互作用。通常の共有結合より弱い非結合性であるため、くっついたりはずれたりと可逆的なふるまいを起こすことが可能である。
注3 カテコール
水中接着を示すイガイやムール貝の接着たんぱく質の成分として知られている官能基。フェノール類の一種で、ベンゼンの隣り合う2つの水素が水酸基に置換した有機化合物である。
注4 環状シロキサン
ケイ素と酸素のSi-O-Si結合からなるシロキサン結合を有し、ケイ素を反応点として有機機能団を有する有機無機ハイブリッド材料の一種。化学式は(R2SiO)nである。Rは有機置換基であり、ビニル基などの反応性置換基の場合、環状シロキサンへの機能団の導入が可能となり、機能性材料への応用が期待される。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学工学研究科 応用化学専攻
助教 朱 慧娥(しゅ けいが)
電話: 022-795-7231
E-mail: zhuhuie*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科
情報広報室 担当 沼澤 みどり
電話: 022-795-5898
E-mail: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)