2022年 | プレスリリース?研究成果
宇宙無重力で育った生物ではドーパミン低下による運動能力の減弱リスクが生じる―浮遊に伴う物理的刺激の低下が原因―
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 教授 東谷篤志
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 宇宙無重力環境で生育したモデル生物の線虫では、筋肉タンパク質やミトコンドリア代謝酵素の低下による運動能力の減弱が認められていたが原因は不明であった。
- 宇宙無重力環境、ならびに地上での疑似微小重力環境で慢性的な浮遊状態(接触刺激の低下)においた線虫で、ドーパミン*1量が減少し運動能力が減弱することを明らかにした。
- 接触刺激を付与することでドーパミン量の低下が抑えられ、運動能力の減弱も改善された。
- 人類がより長期間宇宙に滞在するには、運動に加えて接触刺激の介入も健康を維持する上で大切な要素であることが強く示唆された。
【概要】
宇宙の無重力環境は地上の1G環境とは大きく異なり、身体を支える力が必要ないことから、骨や筋肉が急速に萎縮します。東北大学大学院生命科学研究科の東谷篤志教授らの研究グループは、JAXAはじめ国際的な共同研究により、これまでにモデル生物である線虫Cエレガンスを用いた宇宙実験を複数回実施しました。その結果、宇宙の無重力下で幼虫から成虫に成長した個体での筋肉タンパク質やミトコンドリア代謝酵素の低下と運動能力の減弱を認めましたが、その要因は不明でした。
今回、宇宙の無重力環境ならびに地上での疑似微小重力環境で生育した個体では、神経伝達物質の一つであるドーパミン量が低下して運動能力の減弱につながることを明らかにしました。また、ドーパミン内生量の低下は、物理的な接触刺激の付与だけでも抑えられ、運動能力の減弱が改善しました。これらの結果より、人類がより長期間宇宙に滞在するには、運動に加えて接触刺激の介入も健康を維持する上で大切な要素であることが強く示唆されました。
本研究成果は、オープンアクセス電子ジャーナルiScience誌vol. 25 2月号に掲載されました。
【用語解説】
*1 ドーパミン
ヒトにおいては中枢神経系に存在する神経伝達物質の一つで、運動調節、学習、快の感情、意欲、ホルモン調節などに関わる。線虫や昆虫などの無脊椎動物においても同様に、摂食行動、運動調節、学習などに関わる。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 東谷 篤志 (ひがしたに あつし)
電話番号: 022-217-5715
Eメール: atsushi.higashitani.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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