2021年 | プレスリリース?研究成果
蜂の巣格子に形成される多様な化学結合 バナジン酸マグネシウム:約半世紀来の謎を解明
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 助教 山本孟
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- イルメナイト型構造(注1)をもつバナジン酸マグネシウムにおいて、隣接するバナジウムイオン間に新たな化学結合が形成される二量体化(注2)を発見しました。
- 放射光X線回折実験(注3)により、加熱?冷却で二量体が形成?消失する様子を観測しました。
- 加熱に伴って 二量体状態(固体) ? バレンスボンドリキッド(注4)(液体) ? 金属(気体)と、物質の三態に相当する電子状態が存在することを見出しました。
【概要】
金属酸化物などの化合物における磁性は、多くの場合、それぞれ孤立した金属イオンや陰イオン間の相互作用で説明できます。しかし一部の物質では、金属イオン間で形成される化学結合によって、この描像が成り立たなくなります。近年、金属イオン間の化学結合には二量体のほか、三量体や四量体などの多量体といったさまざまな状態があることが分かり、広く研究が進められています。
バナジン酸マグネシウムは約半世紀前に発見された物質ですが、その化学結合状態はこれまで不明でした。東北大学多元物質科学研究所 山本孟助教、上山幸子大学院生(大学院理学研究科物理学専攻)、木村宏之教授らの研究グループは、イルメナイト型酸化物バナジン酸マグネシウム(MgVO3)において、蜂の巣(ハニカム)格子上で特徴的な幾何学的配置を持って、隣接するバナジウムイオンが二量体化(化学結合の形成)することを発見しました。さらに放射光X線回折測定と物性測定を行ったところ、加熱に伴い 二量体状態(固体) ? バレンスボンドリキッド(液体) ? 金属(気体)と、物質の三態に相当する電子状態が存在することを見出しました。
同研究グループには他に、大阪府立大学 山田幾也教授が参加しました。本成果は2021年12月17日(米国時間)に、化学分野で最も権威のある論文誌の1つ、米国化学会誌でオンライン公開されました。本論文はFront Cover Artにも選ばれました。
図1:本研究で決定したバナジン酸マグネシウムの結晶構造(室温)の模式図。黄色い線はバナジウムイオンの作るハニカムを、実線はバナジウム二量体を示す。(結晶描画ソフトVESTA-3で作成。)
【用語解説】
注1.イルメナイト型構造:化学式ABO3で示される化合物において見られる結晶構造の一種。鉱物であるイルメナイトFeTiO3に由来する。
注2.二量体化: ここでは、二つの原子が化学結合(共有結合)により一つにまとまる現象を指す。
注3.放射光X線回折実験:結晶構造を調べる手法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を測ることで原子の並び方や原子間の距離を決定する。この実験を行ったSPring-8は、理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設であり、利用者支援などはJASRIが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。
注4.バレンスボンドリキッド:二量体(電子軌道)が液体のようにゆらいでいる状態。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 山本 孟(やまもと はじめ)
電話:022-217-5355
E-mail:hajime.yamamoto.a2*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)