2021年 | プレスリリース?研究成果
世界初?日本発:ミトコンドリア病克服への第一歩 ミトコンドリア病治療薬MA-5の成人健常者を対象とした臨床試験を開始
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科 病態液性制御学分野 教授 阿部高明
ミトコンドリア先制医療ウェブサイト
【発表のポイント】
- 研究代表者が開発したMA-5は、ミトコンドリア病注1患者さんの細胞や病態モデル動物で効果が確認されている画期的なミトコンドリア病治療薬候補化合物です。
- 成人健常者56人を対象としてMA-5の経口投与を行う臨床試験を、AMEDムーンショット型研究開発事業注2の支援により開始します。
- この臨床試験は成人健常者を対象として行い、MA-5の安全性?体内動態を確認することを目的としています。
【概要】
ミトコンドリア病は、細胞内のエネルギー(ATP注3)産生工場であるミトコンドリアに障害をきたした疾患で、神経?筋、循環器、代謝系、腎泌尿器系、血液系、視覚系、内分泌系、消化器系でエネルギー産生の低下がおこり、幼少期から非常に重篤な障害をきたす希少疾患です。しかし現時点では、治験で効果があると厳密に確定された治療薬はタウリン以外ありません。東北大学大学院医学系研究科および医工学研究科の阿部高明教授らが開発してきた新規化合物 Mitochonic acid-5 (ミトコニック アシッド5、以下MA-5)は、既存薬とは異なる全く新しいメカニズムのミトコンドリア病治療薬として期待されています。MA-5はミトコンドリア病患者さん由来の培養細胞の細胞死を抑制し、ミトコンドリア病のモデルマウスにおいて心臓?腎臓の呼吸を改善し、生存率を上昇させました。本研究グループは、MA-5を成人健常者に投与し、その安全性を確認する第1相臨床試験を2022年1月より開始します。この試験により、MA-5を人に対して投与することの安全性、MA-5が人体でどのように吸収されて、血液中でどのように運ばれるか、どのように代謝されるか(体内動態)を確認します。
本試験終了後には、実際の患者さんに対してMA-5を投与する第2相臨床試験を行う予定です。本研究は、有効な治療法がない希少難病であるミトコンドリア病の進行抑制や治療につながり、将来的には、同様にミトコンドリア機能の低下により生じる難聴、サルコペニア、ALS、パーキンソン病などの疾患の発症予防や治療に役立つことが期待されます。
MA-5は、ミトコンドリアの内部構造クリステを維持するタンパク質であるミトフィリンと結合し(右図の赤矢印)、ATP合成酵素と複合体を形成することで、既存薬とは異なるメカニズムで生命活動に必要なエネルギーとなるATPの産生効率を高めます。
【用語解説】
注1. ミトコンドリア病:生命活動に必要なエネルギーであるATPの約95%を産生するミトコンドリアの機能異常により引き起こされる疾患です。ミトコンドリアは全有核細胞に存在するために、脳、心臓、腎臓、膵臓など全身のあらゆる臓器の機能低下により神経障害や心不全、腎不全、糖尿病などの疾患が起こります。
注2. AMEDムーンショット型研究開発事業:我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進する事業です。AMEDでは、ムーンショットの目標7「2040年までに、主要な疾患を予防?克服し、100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサスティナブルな医療?介護システムを実現」の達成に向けて研究開発に取り組んでいます。
注3. ATP(adenosine triphosphate : アデノシン3リン酸):生体内エネルギーとして使用される化学物質です。ミトコンドリアに存在する酵素により合成されます。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科病態液性制御学分野
東北大学大学院医工学研究科分子病態医工学分野教授 阿部高明
Eメール: mitomoonshot*med.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
電話番号: 022-717-8032
FAX番号: 022-717-8187
Eメール: press*pr.med.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています