2021年 | プレスリリース?研究成果
骨再生材料の組織治癒力が増大 高密度で転位を導入したリン酸八カルシウム(OCP)骨補填材の開発
【本学研究者情報】
〇大学院歯学研究科 教授 鈴木治
大学院歯学研究科 助教 濱井瞭
大学院歯学研究科 博士課程大学院生 酒井進
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- リン酸八カルシウム(OCP)*1は、世界的に注目される新しい骨補填材である。OCP結晶に原子レベルの構造欠陥である転位(原子配列のしわ)を高密度で導入することで、骨再生能*2を増大させる方法を開発した。
- 転位導入によりOCPの自己溶解性が増大することで、骨芽細胞*3が活性化されることを解明した。転位導入は、結晶中への他元素添加や組成変化に依らない、骨補填材料の新たな設計指針となり得る。
- 高密度の転位を導入したOCPを自己修復困難な骨欠損モデルに埋入すると、自己溶解に合致して新生骨との置換が促進された。骨再生の特性を強化したOCPの骨再生治療への応用が期待される。
【概要】
自己修復することが難しい骨欠損を修復するために、自家骨に代わる安定供給可能な人工材料の開発が求められてきました。東北大学大学院歯学研究科顎口腔機能創建学分野の鈴木治教授、濱井瞭助教、酒井進氏(博士課程学生)らは、有用な骨補填材として世界的に期待されるリン酸八カルシウム(OCP)に、第3成分として生体由来高分子であるゼラチンの共存下で化学合成することで、高密度の転位を含み、高い自己溶解性と新生骨置換性を兼ね備えた高活性OCP骨補填材の開発に成功しました。本材料による再生骨は、天然骨に近い性質(骨質*4)を有することを大阪大学大学院工学研究科生体材料学領域の中野貴由教授らが共同研究で明らかにしました。さらに、OCPへの転位導入は、ゼラチンと同様の分子相互作用が期待できるいくつかの他の有機分子でも可能となることも見出して新たに特許出願し、骨補填材の新しい設計指針を提示しました。骨再生治療が求められる医療への広い応用が期待されます。
本成果は、2021年12月2日に材料科学の国際雑誌「Applied Materials Today」のオンライン速報版に掲載されました。
図 高密度で転位を導入したリン酸八カルシウム(OCP)が発現する高い自己溶解性に伴う新生骨置換性の説明と概要(⊥で示された位置の刃状転位の転位線は、紙面と直交する)。
【用語解説】
*1 リン酸八カルシウム
化学式はCa8H2(PO4)6?5H2Oと表記され、水溶液中からのHA形成の前駆体のひとつであり、また、骨アパタイト結晶の前駆体とも考えられてきた生体材料である。リン酸オクタカルシウムとも称されている。化学式が示す通り、多量の水を含むため、HAやβ-TCPと異なり、単一結晶相として焼結できないことから、生体由来高分子、天然由来高分子、合成高分子と組みあわせた複合体の研究が報告されている。β-TCPと同様に生体内吸収性を示す。また、OCPは骨芽細胞など、骨組織に関連するいくつかの細胞を活性化する能力を持つことが報告されている。
*2 骨再生
疾病や怪我で失われた骨は、その欠損サイズが小さければ自然に骨が再生され元にもどるが、大きな欠損は自己修復できないことが知られている。そのため、自家骨移植や人工材料を補填した骨再生治療が行われている。
*3 骨芽細胞?破骨細胞?間葉系幹細胞
骨髄中や骨組織に存在し、骨形成あるいは骨吸収を担う細胞である。間葉系幹細胞は骨芽細胞に分化する。骨芽細胞は骨形成を行い、破骨細胞は骨吸収を行う機能を有する。
*4 骨質
骨の性質を表す用語であり、骨のコラーゲン線維の配向、HA結晶のc軸方向への配向が高い場合、骨質が高いと表現される。骨の力学的性質に関連する指標ともなっている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
顎口腔機能創建学分野
教授 鈴木 治
E-mail: suzuki-o*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科広報室
電話: 022-717-8260
E-mail: den-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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