2021年 | プレスリリース?研究成果
AI制御によるクライオEMの自動測定システムを開発-AIに管理を任せてデータ測定を楽に-
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 教授 米倉功治
研究者ウェブサイト
【概要】
理化学研究所(理研)放射光科学研究センター利用技術開拓研究部門生体機構研究グループの米倉功治グループディレクター(東北大学多元物質科学研究所 教授)、内藤久志先任研究員、浜口祐研究員、高場圭章特別研究員、XFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループイメージング開発チームの眞木さおり研究員の研究チームは、人工知能(AI)制御によるクライオ電子顕微鏡(クライオEM)[1]の画像データの自動測定システムを開発しました。試料の結晶作製が必要ない「単粒子解析[2]」では、個々の分子が写った多数の画像を撮影すること、微小結晶を用いる「電子線三次元結晶構造解析[3]」では、回折パターン[4]を記録することで、タンパク質などの立体構造を決定します。後者は薬剤や機能性材料の詳細な構造決定にも用いられています。どちらの手法も半自動で測定できるものの、データ取得に失敗する場合もあり、解決すべき課題として残されていました。
今回、研究チームは、AIを利用してクライオEMのデータ測定を制御するソフトウェア「yoneoLocr」を開発しました。まず、分子の画像撮影と電子回折パターン測定に必要となる画像データを、ディープラーニング[5]で機械学習させました。次に、学習結果をデータ測定時にリアルタイムで利用できる一連のシステムを開発し、理研の高性能クライオEMで運用しました。その結果、両手法において、データ取得の失敗は大幅に減少し、完全自動での測定が可能になりました。
本研究は、本研究は、オンライン科学雑誌『Communications Biology』(9月7日付)に掲載されました。
開発したAIソフトウェア「yoneoLocr」によるクライオEMのデータ測定制御の概略
【用語解説】
[1] クライオ電子顕微鏡(クライオEM)
タンパク質などの生体分子を水溶液中の生理的な環境に近い状態で、電子顕微鏡で観察するために開発された手法。まず、試料を含む溶液を液体エタン(約-170℃)などの中に落下させて急速凍結し、アモルファス(非晶質、ガラス状)な薄い氷に包埋する。これを液体窒素(-196℃)冷却下で、電子顕微鏡観察する。電子顕微鏡内の真空中で試料は氷中に保持でき、また、冷却することで電子線の照射による損傷を減らせる。液体窒素冷却下もしくはそれ以下の温度での電子顕微鏡観察や、その装置自体のこともクライオEMと称する。
[2] 単粒子解析
電子顕微鏡で撮影した多数の生体分子の像から、その立体構造を決定する構造解析手法。結晶を作製しなくても分子の構造が得られる。技術革新により、理想的な試料ではX線結晶構造解析に勝る空間分解能で構造が決定できるようになった。2017年のノーベル化学賞の受賞者の一人、Joachim Frankらにより単粒子解析法の基礎がつくられた。
[3] 電子線三次元結晶構造解析
試料の微小で薄い結晶に電子線を照射して、その回折パターンから三次元の立体構造を決定する手法。電子はX線に比べて1万~10万倍も強く物質と相互作用するため、X線結晶構造解析に適さない微小で薄い単結晶が使用できる。電子の散乱特性からは、電荷に関する情報が得られる。Electron 3D crystallography、3D ED、マイクロEDとも呼ばれる。
[4] 回折パターン
電子線やX線が結晶性の試料に散乱され、干渉して回折を示す現象のこと。分子の並びを反映した規則的な回折点の並びなどの特徴的なパターンが観測される。
[5] ディープラーニング
AIを実現するためコンピュータのプログラムに与えられた情報を学習させる手法(機械学習)の一つ。深層学習ともいう。神経細胞を模したニューラルネットワークを用いた多層構造が特徴で、従来のものに比べ高度な学習、情報の処理が可能となる。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 米倉 功治 (よねくら こうじ)
E-mail:koji.yonekura.a5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
広報情報室
電話: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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