2021年 | プレスリリース?研究成果
クライオ電子顕微鏡によるヒト由来カルシウムポンプの構造決定~カルシウムポンプに必要なエネルギ―供給源ATPの新たな取り込み機構の解明~
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 教授 稲葉謙次
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- クライオ電子顕微鏡構造解析により、細胞中のカルシウムの恒常性維持に重要な小胞体膜局在カルシウムポンプSERCA2bの反応中間状態の構造を決定した。
- カルシウムポンプを駆動するためのエネルギー供給源であるATP分子をSERCA2bが取り込む新しい機構を解明した。
【概要】
細胞小器官の一つである小胞体は、カルシウムを取り込むことで細胞内カルシウムイオン濃度を適切に維持しています。SERCA2bは筋収縮の制御、神経伝達、アポトーシスの誘導、タンパク質の品質管理など、様々な生命現象において重要な役割をもつ細胞内カルシウムイオンの恒常性を保つ上で必須の小胞体膜局在カルシウムポンプですが、一部の反応中間状態の構造しか決定されていませんでした。
東北大学多元物質科学研究所の張 玉霞助教、渡部 聡助教、門倉 広准教授、稲葉 謙次教授(生命科学研究科、理学研究科化学専攻 兼担)、および東京大学大学院医学系研究科の包 明久助教、吉川 雅英教授らを中心とした共同研究グループは、SERCA2bの高分解能構造を、クライオ電子顕微鏡単粒子解析注1という技術を用いて決定しました。その結果、カルシウムポンプを駆動するのに必要なエネルギーの供給源であるATP注2分子をSERCA2bが取り込むための新たな機構を発見しました。
本研究成果は、2021年8月30日に欧州生命科学誌The EMBO Journalに掲載されました。
図1 本研究により明らかとなったヒト由来小胞体カルシウムポンプSERCA2bのクライオ電子顕微鏡構造
SERCA2bはAドメイン(駆動ドメイン:黄色), Nドメイン(ATP結合ドメイン:ピンク), Pドメイン(リン酸化ドメイン:水色)の三つのサイトゾル側ドメインと膜貫通ヘリックスドメイン(ベージュ)からなる。本研究では、カルシウムイオン結合およびATP非結合状態のSERCA2bのクライオ電子顕微鏡構造を解くことに成功し、この状態では三つのサイトゾル側ドメインがコンパクトに閉じたクラスターを形成していることが明らかとなった。
【用語解説】
注1)クライオ電子顕微鏡単粒子解析
タンパク質の立体構造を高分解能で決定するための手法の一つ。電子線照射による分子の振動や損傷を抑えるために、観測対象のタンパク質を氷薄膜中に包埋し、マイナス180度の低温に保ったまま電子顕微鏡像を観測する。個々の分子像は、様々な向きで氷薄膜に包埋された分子の投影像であり、数万分子の投影像から高分解能の三次元構造を構築する。
注2)ATP
別称、アデノシン三リン酸。分子内に高エネルギーリン酸結合を有しており、それが加水分解されることでエネルギーを放出する。ここで放出されたエネルギーは、エネルギーを要する様々な生体内作用に寄与する。地球上のほとんど全ての生物に普遍的に分布し、「生体エネルギーの通貨」とも呼ばれる。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 教授
稲葉 謙次(いなば けんじ)
Tel: 022-217-5604
E-mail: kenji.inaba.a1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
伊藤 智恵(いとう ともえ)
Tel: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)