2021年 | プレスリリース?研究成果
ハマダイコンの遺伝的多様性が維持される仕組みを解明 自然界で自家不和合性遺伝子が維持される仕組みと個体間の交雑動態
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 教授 渡辺正夫
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 植物には他殖性を担保するために自家不和合性という仕組みがある。
- 屋久島に自生しているハマダイコンの自家不和合性遺伝子には島内集団間で異なる遺伝子分布が見られ、近隣の個体間で他家受粉していることを解明。
- アブラナ科野菜の品種改良の効率化への応用が期待される。
【概要】
植物の生殖過程には、自己?非自己の花粉を認識することで子孫を残すべき花粉を選別する「自家不和合性*1」という仕組みがあります。自家不和合性遺伝子(S対立遺伝子*2)に関する実験室レベルでの解析は行われてきましたが、自然集団内における、S対立遺伝子の個体ごとの空間的な遺伝構造は不明でした。
東北大学大学院生命科学研究科の福島和紀大学院生、渡辺正夫教授らの研究グループは、宮城県仙台第一高等学校、屋久島環境文化研修センター、順天大学、株式会社トーホク、東京大学、三重大学、大阪教育大学との共同研究を行い、大規模なダイコン栽培がなされていない屋久島に着目し、屋久島の海浜部に自生しているハマダイコン集団におけるS対立遺伝子を3世代にわたって調査解析しました。その結果、島内の異なる集団間ではS対立遺伝子の分布、多様性が異なっていました。また、植物体に着生した種子のS対立遺伝子の解析から、集団内においても、比較的近い個体間で交雑が起き、集団間で共有しているS対立遺伝子数が少ないことから、屋久島のハマダイコン集団ではS対立遺伝子の多様性が維持されていることを明らかにしました。
本研究成果は、2021年6月18日、「Genes & Genetic Systems」誌のオンライン速報版で公開されました。
屋久島の海浜辺に自生しているハマダイコンの様子
【用語解説】
*1自家不和合性: 近親の交雑を続けることによる個体の弱体化を防ぎ、集団の均一化を避けるための機構。雌雄が正常であるにもかかわらず、自己の花粉を認識?拒絶することで、受精には至らない現象。アブラナ科植物では、自己認識を司る因子が♀側?♂側ともに明らかになっており、それぞれ、受容体型キナーゼ(SRK)?リガンドタンパク質(SP11)から構成されている。SRKとSP11は個体ごとに遺伝子配列が異なる多型性を有しており、♀側因子(SRK)と♂側因子(SP11)が同一個体あるいは、同一S対立遺伝子由来であった場合には、SRKとSP11は互いに結合することで、めしべ細胞内に自己花粉拒絶のシグナルを伝えることができる。逆に異なる場合には、これらが結合できないために、受粉?受精が正常に行われ、次世代である種子を作ることができる。
*2 S対立遺伝子: 多くの遺伝子は優性(A)と劣性(a)という2組の対立遺伝子がある。一方、自家不和合性を制御するS遺伝子の場合、3つ以上の複数の対立遺伝子(S1, S2, S3, ...., Sn)が存在し、対立遺伝子の番号が異なる組合せでは和合性となり、同じ場合は不和合性を示す。現在では自家不和合性をself-incompatibilityと記す。1900年代の初め頃には、self-sterilityとも呼ばれていたことから、sterilityの頭文字を取って、S遺伝子と呼ばれ、incompatibility(不和合性)とsterility(不稔性)は異なる概念であるが、現在でもこの表記が使われている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 教授 渡辺 正夫 (わたなべ まさお)
電話番号: 022-217-5681
Eメール: nabe*ige.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)