2021年 | プレスリリース?研究成果
化学的圧力で単結晶の欠陥を制御して最低熱伝導率を達成 中性子ホログラフィーでマグネシウム錫化合物にドープしたホウ素の役割を解明
【本学研究者情報】
〇本学代表者所属?職?氏名:大学院工学研究科 応用物理学専攻 ?准教授?林 慶
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- マグネシウム錫化合物※1の単結晶をホウ素で部分的に置換することで化学的圧力※2が高くなり、マグネシウムの空孔欠陥※3の量が増加するとともに、転位※4の密度が増加することを明らかにした。
- 中性子ホログラフィー※5によって、ホウ素周辺にマグネシウムの空孔欠陥が存在していることがわかった。
- 空孔欠陥と転位により、マグネシウム錫化合物単結晶において、理論的に予想されている最低熱伝導率を達成し、高い熱電変換効率をもつ単結晶熱電変換材料の開発指針を確立した。
【概要】
熱エネルギーから発電できる熱電変換材料として、安価で環境に優しいマグネシウム錫化合物が注目されています。これまでの研究で、マグネシウム錫化合物の単結晶に、マグネシウムの空孔欠陥を導入して多結晶より熱伝導率を低くし、電気伝導キャリアを導入して熱電変換性能を向上させましたが、電気伝導キャリアを導入すると、空孔欠陥量が減少することが課題として残っていました。この課題を解決するために、マグネシウム錫化合物単結晶をホウ素で部分置換したところ、空孔欠陥量を増加することに成功しました。これはホウ素部分置換によって化学的圧力が高くなったためです。空孔欠陥に加えて、転位密度も増加したため、理論的に予想されている最低熱伝導率を達成することができました。本研究により、化学的圧力を制御することで、さらにマグネシウム錫化合物単結晶の熱電変換性能を向上させることができる可能性が示されました。マグネシウム錫化合物単結晶を用いた熱電変換デバイスを実用化できれば、省エネルギー社会と低炭素社会を実現できると期待されます。
本研究は、東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻の齋藤 亘氏(博士後期課程学生)、黄 志成氏(博士後期課程学生)、林 慶准教授、宮﨑 讓教授、茨城大学大学院理工学研究科 量子線科学専攻の杉本和哉氏(博士前期課程学生)、大山研司教授、名古屋工業大学大学院工学研究科 物理工学専攻 林 好一教授、広島市立大学大学院情報科学研究科 情報工学専攻 八方直久准教授、東北大学大学院工学研究科 合同計測分析班 宮崎孝道氏、およびJ-PARCセンター 物質?生命科学ディビジョンの原田正英研究主幹、及川健一研究主幹、稲村泰弘研究副主幹との共同研究であり、米国化学会発行の科学誌 ACS Applied Energy Materialsに2021年4月22日に掲載されました。
マグネシウム錫化合物のマグネシウムをホウ素で部分置換することで、ホウ素周辺のマグネシウムが欠損して結晶の周期性が乱れるとともに転位が生じ、熱伝導率を低減することに成功した。左、中央、右の画像は、それぞれマグネシウム錫化合物の結晶構造、中性子ホログラフィーで明らかになったホウ素周辺の原子像、および透過型電子顕微鏡像を示している。
【用語解説】
※1 マグネシウム錫化合物とマグネシウムケイ化物
MgとSn(錫)あるいはSi(ケイ素)がモル比2:1で化合した物質を指す。
※2 化学的圧力
物質を構成する原子の一部を大きさの異なる原子で部分置換すると、物質の格子定数が変化する。格子定数の変化は、物質に加わる圧力が増減したと見なせることから、部分置換によって物質に加わる圧力のことを化学的圧力と呼ぶ。
※3 空孔欠陥
物質固有の点欠陥の一種。原子の周期的な配列の隙間に原子が侵入することを格子間欠陥、原子が欠損することを空孔欠陥と呼ぶ。
※4 転位と刃状転位
転位とは物質固有の線欠陥であり、特定の原子面の上方と下方で原子面の数が異なり、余剰原子面が存在することで生じる転位を刃状転位と呼ぶ。
※5 中性子ホログラフィー
物質に中性子を当てて、原子によって散乱された中性子の波と、原子に当たっていない中性子の波の干渉波(ホログラム)を観測する実験方法。ホログラムを使って、原子像を再生することができる。
問い合わせ先
<研究に関して>
林 慶(ハヤシ ケイ)
東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻 准教授
電話:022-795-4637
E-mail: hayashik*crystal.apph.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
宮﨑 讓(ミヤザキ ユズル)
東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻 教授
電話:022-795-7970
E-mail:miya*crystal.apph.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道に関して >
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤みどり
電話:022-795-5898
E-mail:eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)