2021年 | プレスリリース?研究成果
トポロジカル反強磁性金属の超高速スピン反転を実証―テラヘルツ電子デバイスの実現に道―
【本学研究者情報】
〇本学代表者所属?職?氏名:学際科学フロンティア研究所?助教?飯浜 賢志
材料科学高等研究所?教授?水上 成美
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 反強磁性金属における超高速スピン反転の観測に初めて成功
- 反強磁性金属のスピン反転が10ピコ秒以下であることを実証
- 読み出し/書き込み速度が実用化されている不揮発性メモリと比較して10-100倍速いテラヘルツ電子デバイスの開発に大きな一歩
【概要】
東京大学物性研究所?トランススケール量子科学国際連携研究機構の三輪真嗣准教授、同研究所?同機構?東京大学大学院理学系研究科の中辻知教授は、同研究所の冨田崇弘特任助教、Ikhlas Muhammad大学院生、坂本祥哉助教、同研究科の肥後友也特任准教授、同研究所?同機構の大谷義近教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー)、同大学大学院工学系研究科の野本拓也助教、有田亮太郎教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー)、東北大学学際科学フロンティア研究所の飯浜賢志助教、同大学材料科学高等研究所の水上成美教授と共同で、物質中の電子がもつ磁石としての性質、すなわちスピンの反転速度が反強磁性金属(注1)では10ピコ秒(1000億分の1秒)と極めて速いことを実証しました。
ナノサイズの磁石を利用するエレクトロニクス技術をスピントロニクス(注2)と呼びます。スピンを電荷とともに利用することで、これまでの技術では実現できなかった新しい機能を持つ電子デバイスの創出が期待されています。代表的なデバイスとしては超高密度ハードディスクドライブ用磁気ヘッドや不揮発性メモリMRAMがあります。これまでスピントロニクスでは磁石材料として強磁性金属が用いられました。一方で反強磁性金属は強磁性金属と比べてスピンの反転速度が10-100倍速いピコ秒台と予想され、新たな電子デバイス材料として注目されています。しかし、反強磁性金属におけるスピンの動きを時間軸で観測した例はなく超高速性は予測に過ぎませんでした。本研究ではトポロジカル反強磁性金属(注3)と呼ばれる特殊なマンガン合金を用いてスピンの動きを実時間で捉えることに成功し、その反転速度が10ピコ秒以下と超高速であることを実証しました。これは実用化されているMRAMに比べて10-100倍程度速く読み書きができることに相当し、本材料を用いた電子デバイスを作製すれば、超高速動作が可能になります。
本研究成果は国際科学雑誌「Small Science」において、2021年4月15日付オンライン版に公開されました。
図1 トポロジカル反強磁性金属Mn3Snのスピン(左)及び結晶構造(右)
【用語解説】
(注1)反強磁性金属、強磁性金属
反強磁性及び強磁性を示す金属材料のことです。物質中の原子ひとつひとつは磁石としての性質、すなわちスピンを持ちます。反強磁性体では個々の原子磁石のスピンが一方向にはそろわず、全体として正味のスピン(磁極)がほぼゼロになります。強磁性体では個々の原子磁石のスピンが一方向にそろい、正味のスピンを有します。一般に磁石と呼ばれるものの多くが強磁性体です。
(注2)スピントロニクス
ナノ磁石を利用するエレクトロニクス技術。電子が持つ磁石としての性質である「スピン」を電荷とともに利用することで、これまでの技術では実現できなかった新しい機能を持つ電子デバイスの創出を目指しています。代表的な電子デバイスとしては超高密度ハードディスクドライブ用磁気ヘッドや不揮発性磁気メモリMRAMがあります。
(注3)トポロジカル反強磁性金属、拡張八極子偏極
本研究で用いた反強磁性金属Mn3Snでは三角形の格子上にMn原子が並び、原子磁石のそれぞれの磁極は120°ずつ傾きます。個々の原子磁石のスピンを足し合わせた正味のスピンは通常の反強磁性体同様にほぼゼロですが、このスピン構造を巨視的に捉えると拡張八極子偏極を定義できます。
Mn3Snはこの拡張八極子偏極の方向に対応した非自明な電子状態を運動量空間に有するトポロジカル反強磁性金属として知られています。このことによりトポロジカル反強磁性金属Mn3Snは磁極がない反強磁性体でありながら、拡張八極子偏極が強磁性体における磁極同様の性質を持ち、電気や磁気等の外場に対して強磁性体同様の応答を示します。
問い合わせ先
東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
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E-mail: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)