2021年 | プレスリリース?研究成果
スピントロニクス疑似量子ビットを従来比100倍超に高速化~エントロピーを用いた磁化のブラウン運動の新しい理解に基づき演算速度の向上に道筋~
【本学研究者情報】
〇本学代表者所属?職?氏名:電気通信研究所?助教?金井 駿
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- スピントロニクス技術を用いた擬似的な量子ビット(確率ビット:Pビット)で1秒間に1億回以上状態を更新する重要技術を開発
- エントロピーの概念を非平衡動的磁化過程へ導入することでPビットの高速動作原理を解明
- Society5.0での活躍が期待される、複雑な計算問題の処理を得意とする「確率論的」コンピューターの開発を加速
【概要】
「量子コンピューター」や「確率論的コンピューター」など、「不確定性」や「確率性」を積極的に利用した従来にないコンピューターが注目を集めており、これらを実現するための、電子の持つ電気的性質と磁気的性質(スピン)の同時利用に立脚する「スピントロニクス」注1)技術の活用が有望視されています。
東北大学電気通信研究所の金井駿助教、早川佳祐博士前期課程学生、大野英男教授(現、総長)、深見俊輔教授らは、スピントロニクス技術を用いた擬似量子ビット(確率ビット:Pビット)素子を、1秒間に1億回(従来比100倍)動作(「物忘れ」)させるための重要技術を開発すると共に、これまで着目されてこなかった動的磁化状態の「エントロピー」を考慮することでその物理的起源が説明されることを示しました。本成果は、確率論的コンピューターの研究開発を加速するものです。加えて、「ゆらぎの定理」などの非平衡熱統計物理学の新概念とスピントロニクスを繋ぐ革新的な手法を提供することが期待されます。
本研究成果は2021年3月17日付で米国の科学誌「Physical Review Letters」及び「Physical Review B」で各一報ずつが連携論文として公開され、いずれの科学誌においても「編集者推薦論文」として高い評価を受けました。
図1)
(左上)作製した磁気トンネル接合素子の構造:数字はナノメートルの単位。
(右上)走査型電子顕微鏡像:楕円形の素子を上から撮影した様子。
(左下)素子抵抗の外部磁場依存性:直流で測定した素子の抵抗を示している。磁気抵抗効果により、磁化方向の変化に対応した抵抗変化が観測された。
(右下)対応する状態の模式図:ビットの「0」と「1」に対応したエネルギーポテンシャルと、その間にあるエネルギー障壁の磁場依存性、熱ゆらぎによる状態遷移の様子を示しており、それぞれ左下の図の抵抗の状態に対応している。
【用語解説】
注1)スピントロニクス
電子の持つ電気的性質(電荷)と磁気的性質(スピン)を同時に利用することで発現する物理現象を明らかにし、工学的に利用することを目指す学術分野。スピンの持つ量子的性質はナノメートル(10のマイナス9乗メートル)のスケールで顕著に見られ、微細加工技術の進展とともに様々な関連現象が発見されてきた。例えば従来は不可能であった磁気的性質や磁化方向の電気的な検出や制御(スピントルク磁化反転)、電気伝導特性の磁場や磁化による制御などが可能となり、現在も様々な現象が発見され続けている。
問い合わせ先
研究に関すること
東北大学電気通信研究所
助教 金井 駿
電話 022-217-5555
E-mail skanai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
報道に関すること
東北大学電気通信研究所 総務係
電話 022-217-5420
E-mail somu*riec.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)