2021年 | プレスリリース?研究成果
続報?肺転移のあるイヌ悪性黒色腫に抗PD-L1抗体が有効であることをはじめて実証 ~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬の実現に大きく前進~
【本学研究者情報】
〇本学代表者所属?職?氏名:大学院医学系研究科抗体創薬研究分野?教授?加藤 幸成
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 悪性黒色腫を含む各種イヌ悪性腫瘍において高率にPD-L1が発現していることを確認。
- 肺転移のある悪性黒色腫をもつイヌに対してイヌキメラ抗PD-L1抗体の臨床研究を継続実施。
- 一部のイヌで肺転移巣を含む腫瘍の退縮を確認、生存期間の延長も見込まれることを解明。
【概要】
北海道大学大学院獣医学研究院の前川直也特任助教及び今内覚准教授らの研究グループは、イヌPD-L1を特異的に検出する免疫組織化学染色法*1を樹立し、免疫チェックポイント阻害薬*2である抗PD-L1抗体を用いた治療が肺転移した悪性黒色腫*3を持つイヌに対して一定の有効性と安全性を示すことを明らかにしました。
近年、長寿命化に伴い悪性腫瘍(がん)によって命を落とすイヌが増えており、既存の治療法に加えて新たな治療戦略の開発が望まれています。ヒト医療では、外科療法?放射線療法?化学療法に加え、免疫療法の応用が進んでおり、特に抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体といった免疫チェックポイント阻害薬は、悪性黒色腫や肺がんなどの多くのがん種に対して良好な治療成績が報告されています。これまでにイヌの悪性腫瘍においてもPD-1/PD-L1経路による免疫抑制が起きていること、また世界初のイヌ用免疫チェックポイント阻害薬であるイヌキメラ抗PD-L1抗体*4(c4G12)が一部のイヌにおいて腫瘍の退縮をもたらすことを同大学動物医療センターにおける臨床研究によって明らかにしてきました。しかし、どのような腫瘍でPD-L1が発現しており治療の標的となるのか、また抗PD-L1抗体の治療効果や安全性についてはいまだ情報が少なく、より大規模な検討が必要でした。
そこで本研究では、まずイヌPD-L1を特異的に検出する免疫組織化学染色法を樹立し、発現解析を行ったところ、悪性黒色腫をはじめとする様々な種類のがんで高率にPD-L1の発現が認められました。また、肺に転移した悪性黒色腫をもつイヌ29頭に対し、抗PD-L1抗体による試験的治療を行ったところ、一部のイヌで肺転移巣を含む腫瘍の退縮が観察されたほか、同センターにおいて治療した過去の症例と比べ、抗PD-L1抗体治療群では有意に生存期間が長いことが明らかになりました。本成果は、イヌ腫瘍治療に免疫療法という選択肢をもたらすための大きな一歩であり、イヌでの免疫チェックポイント阻害薬の実用化に向けた重要な知見となります。
なお、本研究の一部は文部科学省科学研究費助成事業及びAMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)の支援の下、東北大学と共同で行いました。
なお、本研究成果は、日本時間2021年2月12日(金)午後7時(英国時間2021年2月12日(金)午前10時)公開のnpj Precision Oncology誌に掲載されました。
図1. PD-L1(免疫チェックポイント分子)による腫瘍の免疫抑制メカニズムと抗PD-L1抗体による治療。(左)免疫抑制性受容体PD-1にPD-L1が結合すると,細胞傷害性T細胞の機能が低下し腫瘍を排除できなくなる。(右)抗PD-L1抗体によりPD-1/PD-L1結合を阻害すると,抗腫瘍免疫が再活性化する。
【用語解説】
*1免疫組織化学染色法 ... 抗体を用いて、組織サンプルにおけるタンパク質などの特定の因子の発現を解析する手法のこと。外科手術や生体組織診断(バイオプシー)によって得られた組織など、構造を保持したサンプルを解析できることから、解析対象因子の局在や発現する細胞種などの情報が得られる。
*2免疫チェックポイント阻害薬 ... がん細胞は通常、免疫応答による排除を受けるが、一部のがんは免疫を回避(抑制)する機構を獲得することがある。例えば免疫細胞(T細胞)にあるPD-1というタンパク質(受容体)と、がん細胞のPD-L1というタンパク質(リガンド)が結合すると、免疫細胞はがん細胞に対する攻撃をやめてしまう。一方で、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体はPD-1とPD-L1の結合を阻害することで抗腫瘍免疫を活性化することができる(免疫療法)。PD-1やPD-L1などは免疫応答の調節に重要な役割を担うことから免疫チェックポイント分子と呼ばれ、それらを標的とした薬剤は免疫チェックポイント阻害薬と総称されている。
*3悪性黒色腫 ... 皮膚や粘膜などに発生する、色素細胞(メラノサイト)に由来する悪性腫瘍のこと。メラノーマとも呼ばれる。
*4イヌキメラ抗PD-L1抗体 ... ラット抗PD-L1抗体の定常領域(PD-L1への結合に関与しない部分)をイヌ由来のタンパク質に置き換えた組換え抗体のこと。ラット抗PD-L1抗体と比較して、イヌ体内での効果の持続時間が延び、副作用の軽減も期待できる。
問い合わせ先
<研究内容に関すること>
東北大学未来科学技術共同研究センター
/大学院医学系研究科抗体創薬研究分野
教授 加藤幸成(かとうゆきなり)
TEL: 022-717-8207
FAX: 022-717-8207
メール:yukinarikato*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道に関すること>
東北大学大学院医学系研究科?医学部 広報室
TEL: 022-717-7891
FAX: 022-717-8187
メール:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)