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X線撮像素子のピクセルサイズを従来の1/1000以下にする超解像現象の発見

【発表のポイント】

  • 従来の背面照射型CCD或いは背面照射型CMOSを用いた軟X線*1撮像素子のピクセルサイズは10×10?m2程度のサイズです。新たにシンチレーター*2と誘導放出*3抑制(STED*4)技術を組み合わせることで、ピクセルサイズを10×10nm2台にまで縮小する現象を発見しました。
  • 2次元検出器はX線顕微鏡などにおける像の取得に必要な装置であり、ピクセルサイズが小さく、ピクセル数が多いほど高解像度な撮像素子となります。今回発表した成果は、このピクセルサイズを縮小するための超解像技術の原理を検証したことになります。

【概要】

東北大学多元物質科学研究所の江島丈雄准教授、埼玉医科大学保健医療学部の若山俊隆教授、宇都宮大学工学部の東口武史教授らの研究グループは、シンチレーターのひとつであるCe:Lu2SiO5 (以下、Ce:LSO) からの発光領域を、可視対物鏡の回折限界スポット径の1/10以下に制限することに世界で初めて成功しました。

これまでX線励起によるSTED現象は知られていませんでしたが、本研究ではシンチレーターのひとつであるCe:LSOが、X線励起による蛍光においてSTED現象を示すことと、ベクトル偏光*5した光を用いるとその蛍光領域を制限できることの2つを確認しました。これらの結果は、対物レンズの空間分解能よりも小さな蛍光点径が得られること、その結果として高い解像度を持つ2次元検出器やレントゲン方式の顕微鏡として応用が可能であることを示しています。

本研究成果は、2020年3月25日(英国時間)に、Nature 虎扑电竞のScientific Reportsにオンライン公開されました。

この研究成果の一部は、文部科学省科学研究費補助金 基盤B(課題番号16H03902, 19H04391)、挑戦的萌芽(17H190210)の支援を受けています。実験は、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 フォトンファクトリーの放射光共同利用実験審査委員会(提案番号2018G072)の承認の下で行われました。

図1:(a)軟X線(800 eV)で励起したCe:LSOの発光(青)とSTEDレーザー(緑)。図中「Reflection」と示した部分はシンチレーター裏面からの反射像、(b)図(a)中の破線AB間での光強度プロファイル。照射したレーザー光によりCe:LSOの発光が抑制され中央の発光点のみが残ったことを示している。(c)発光点径/ビーム径比の光強度比変化。光強度比の増加によりシンチレーター発光点の直径が減少する。結果は、アッベの回折条件によるスポット径の1/10まで小さくできたことを示している。

【用語解説】

*1 軟X線:光子エネルギー30eV(波長40nm)から数keV(波長0.数nm)の光のこと。物質との相互作用が強く、大気中では空気に吸収される

*2 シンチレーター:放射線に励起されることにより発光する特性を示す物質の総称。発光物質に入射粒子が衝突すると、入射粒子のエネルギーを吸収し発光する。用途により様々な物質が開発されている。

*3 誘導放出:励起状態の電子(あるいは分子)が、外部から加えた電磁波(光子)によってより低いエネルギー準位にうつり、その分のエネルギーを電磁波として放出する現象である。このとき放出される光子は、外部から入射した光子と同じ位相、周波数、偏光を持ち、同じ方向に進む。 誘導放出を利用することで、光を位相や波長を揃えて(コヒーレントに)増幅することができ、レーザーの発振などに応用される。

*4 超解像蛍光顕微鏡(STED顕微鏡):既に実用化されている超解像蛍光顕微鏡は、光源にレーザーを用い、そのレーザー光により試料中の蛍光分子を励起する。励起レーザーの集光点周辺にはドーナツ状のスポットを別の誘導放出用レーザーにより配置する。励起レーザーで励起された蛍光分子のうち、励起集光点の周辺部位は誘導放出により発光し、その中心部は自然放出により発光する。このため、自然放出による蛍光のみを検出すれば、励起レーザー集光点の中心部分の蛍光分子のみを計測でき、通常のレーザー走査顕微鏡に比べて空間分解能を格段に向上することができる。

*5 偏光:電場および磁場の振動方向が規則的な光のこと。振動方向が無規則な光は非偏光あるいは自然光と呼ぶ。ベクトル偏光は、振動方向が光軸(円の中心)に対して対称に偏光している光のことを指す。中心部の電場強度が0となるため中抜けのドーナツ状のビーム形状となる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
国立大学法人東北大学 多元物質科学研究所
准教授 江島 丈雄(えじま たけお)
電話:022-217-5377
E-mail:takeo.ejima.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
国立大学法人東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室(担当:伊藤)
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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