2017年 | プレスリリース?研究成果
細胞内の不良品たんぱく質の分解メカニズムを解明~アルツハイマー病など神経性疾患の成因解明が可能に~
ポイント
- これまで、どのように効率よく不良品タンパク質中のジスルフィド結合を還元し、分解を促進するのか分かっていなかった。
- 一分子レベルでの観察により、ERdj5のC末端側クラスターの自由度が、誤って形成されたジスルフィド結合の還元に必要であることを明らかにした。
- 構造異常たんぱく質を速やかに分解するための還元経路に関する理解がさらに深まることが期待される。
概要
JST戦略的創造研究推進事業において、東北大学の稲葉 謙次教授、熊本大学の小椋 光教授、京都産業大学の永田 和宏教授らのグループは、X線結晶構造解析により、ジスルフィド結合開裂酵素ERdj5のクラスターの配向が異なる2つの結晶構造を解明しました。
細胞内には、正常なたんぱく質の高次構造形成反応を促進する仕組みがある一方で、構造異常のたんぱく質を速やかに分解?除去するための巧妙な品質管理システムも存在します。Protein Disulfide Isomerase (PDI)ファミリーたんぱく質の1つであるERdj5は、哺乳動物細胞の小胞体中で誤って形成されたジスルフィド結合を還元し、小胞体関連分解と呼ばれる分解機構を促進させる役割を担っています。ERdj5の全体構造はそれぞれが複数のドメインから構成されている2つのクラスター(N末端側クラスターとC末端側クラスター)に分けることができます。両クラスターは、フレキシブルなリンカー領域で連結されていることから、動きに富むことが示唆されていました。しかし、この動きがERdj5の機能発現にどう関わるか不明だったため、詳細な分子機構の解明が求められていました。
さらに高速原子間力顕微鏡により、ERdj5のC末端側クラスターがダイナミックに動いている様子を一分子レベルで観察することに世界で初めて成功しました。さらに細胞を用いた実験により、ERdj5のC末端側クラスターの動きが、構造異常たんぱく質中のジスルフィド結合の還元および分解促進に重要な役割をもつことが強く示唆されました。
本研究の成果は、2017年5月4日(米国東部時間)に「Structure」のオンライン速報版で公開されました。
お問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学多元物質科学研究所
教授 稲葉 謙次(いなば けんじ)
Tel:022-217-5604
E-mail:kinaba*tagen.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道に関すること>
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
Tel:022-217-5866
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)