2010年 | 受賞?成果等
小惑星探査機「はやぶさ」と東北大学との関わり
東北大学の卒業生である、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大竹 真紀子さんより、2010年6月13日に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」と東北大学との関わりについてご寄稿いただきました。
小惑星探査機「はやぶさ」と東北大学
大竹 真紀子 (宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所)
私自身は、月の周回衛星「かぐや」に関わっており、小惑星探査機「はやぶさ」計画には直接関わっているわけではいないのですが、私が所属している宇宙航空研究開発機構(JAXA)の部署では、複数の同僚がこのミッションに深く関わっています。研究者としての興味はもちろんのことですが、本ミッションに関わる方々の並々ならぬ熱意と困難に負けない不屈の意志を、いつも身近に感じている者として、また東北大の卒業生の一人として、「はやぶさ」ミッションと東北大の先生方の「はやぶさ」への関わりを紹介させていただきます。
惑星探査機「はやぶさ」は2003年に打ち上げられ、2年以上かけて地球から3億キロ(当時)離れた小惑星「イトカワ」に到達し、小惑星近傍での形状、地形、表面高度分布、反射率(スペクトル)、鉱物組成、重力、主要元素組成などを観測し、小惑星表面への着陸を行い、多くのデータを取得しました。その後、さらに約4年半かけてサンプリングカプセルは地球に向かって飛行し、2010年6月13日(日本時間)にオーストラリアの砂漠に帰還しました。その間、いくつかのトラブルに見舞われながらも、それらを乗り越えて、無事に出発地の地球まで戻ってきたカプセルの姿に感動された方も多いのではないでしょうか。
これまでに、「はやぶさ」の観測データから得られた成果の一例として、小惑星「イトカワ」の表面は大小様々な岩で覆われていること、また小惑星の内部に岩の隙間があり、全体として瓦礫の集まりのような天体(ラブルパイル)であることがわかりました。これらの特徴は、一旦形成された微小天体が別の天体との衝突により破壊され、それらの破片が集まって小惑星「イトカワ」が形成されたことの証拠です。このような小惑星同士の衝突や破壊、破片の合体成長は太陽系の歴史の中で普遍的な現象です。一方、天体表面の元素組成から、小惑星「イトカワ」は太陽系初期に形成された微小天体が、衝突破壊を経験しながらも、天体全体は一度も溶けずに現在まで生き残ったものであると考えられます。月や地球のように大きく成長した天体では、内部が溶融分化し天体形成時の情報を失ってしまいます。「はやぶさ」のカプセルに小惑星のサンプルが入っていれば、それらの分析により、直接的に小惑星の起源や太陽系誕生について鍵となる情報が得られるものと期待されています。
「はやぶさ」計画は、長い時間をかけて計画?実行されており、非常に多くの研究者や技術者らによって支えられてきたミッションです。これは、「はやぶさ」だけに限らず、全ての惑星探査機にも言えることです。私もほんの少しだけ、衛星に命令を送ったり,情報を取り出す作業という「はやぶさ」の運用を勉強させていただく機会がありました。「はやぶさ」に送った信号とは、例えば人間の言葉で言うと「おーい、元気ですか?」というような、「はやぶさ」の健康状態を確認するための信号です。この信号は、光速で走って「はやぶさ」に到達し、「はやぶさ」からの返信号(「はーい、元気ですよ」というような返事に相当)が戻ってくるまでに数十分かかり、地球と「はやぶさ」の距離の遠さを実感しました。それほど、遠い場所にいた「はやぶさ」が無事地球に戻ってくるまでの長い旅を想像すると、関係された多くの方の努力の大きさが伝わってきます。
東北大学の先生方も、「はやぶさ」ミッションに関わり重要な役割を担っておられます。大学院工学研究科航空宇宙工学専攻の吉田和哉教授は、小惑星からのサンプルの採集技術に関して、計画当初から検討ワーキンググループに参加し、サンプル採集の方式の検討と決定に関わりました。また、小惑星表面への降下、接地、上昇の各フェーズにおけるダイナミクスと制御シミュレーションの詳細検討や検証実験も実施されました。
また、大学院理学研究科地学専攻の中村智樹准教授は、小惑星サンプルの分析?研究やサンプルの各担当者への配布などを今まさに行われている最中です。中村先生に今の心境を伺ったところ、以下のようなお話をされていました。
“探査機やカプセル関係の工学系の方々の大変なご努力により、無傷で地球に帰還した「はやぶさ」カプセルを解析できることを光栄に思っています。「はやぶさ」探査機がほんの少しでも「イトカワ」の塵を取っていれば、それをカプセルから見つけ出し、分離し、分析し、「イトカワ」の物質科学的特性を引き出すことが私の使命だと考えています。”
(中村先生のコメントに関しては、http://www.sci.tohoku.ac.jp/mediaoffce_s/naka-hayabusa.html もご覧ください。)
中村先生は控えめにコメントされていますが、世界中の科学者が先生の分析?研究結果に大いに注目しています。最後に、これまでの「はやぶさ」の成果にお祝いを述べさせていただくとともに、今後のさらなる成果に期待しています。